8、料理甲子園(4)
二人はしばらく選手でごちゃごちゃの会場を見ていた。
すると陽一は茜に「子供・・・おろすの?」と聞いた。
「悩んでる・・・最初はおろそうと思ってたけど、一緒に生活してると思うと、生みたくなるんだよね」茜はそう言って笑った。
「真は知らないんだよな?」
「うん・・・。私達って本当ダメだね。お互い意地っ張りだから、何でもかんでも自分で決めちゃって・・・。もっと二人で話し合わなきゃだめだよね・・・」
「そうだよ。二人で考えないと。俺に出来ることがあれば言ってくれよ」
「有難う、陽一君」
いよいよ結果発表。
結局、陽一と茜は恵の姿を見つける事が出来なかった。
司会者は、決勝進出者の名前を読み上げていった。
「西麻布女子学園 近藤照実さん」
「県立さいたま商業 江本凛子さん」
「港南学院高校 山野恵さん」
「やった!」陽一と茜は手を取り合って喜んだ。
なんと恵は、料理甲子園決勝進出を果たしたのだ。
恵も会場で両手を上げて喜んだ。
恵の今日のレシピは。
『鶏肉と里芋の和風あんかけ』
『蛤の酒蒸し』
『蓮根のまぐろ肉詰め』
『山菜ちらし寿司』
『野菜たっぷりの味噌汁』
あくまで和にこだわったメニューだった。
難易度の高い和食で揃えた事と、基本に忠実な味付けが、審査員の高評価の要因となった。
東京ドームの外で陽一と茜が待っていると、恵が「陽一!茜!」と言って、走ってやってきた。
そしてみんなにハイタッチをして喜んだ。
「恵、よかったじゃん。決勝進出じゃん。おめでとう」茜は喜ぶ恵の姿を見ると、思わず涙ぐんでしまった。
すると恵は茜に抱きついて「茜、ありがとう。私、頑張る・・・」と言って涙ぐんだ。
そんな二人を見てると、陽一は微笑ましい気持ちになった。
そしてその日の晩。
茜は遂に妊娠した事を真に告げた。
「そうか・・・」
「真、どうする?」
「俺は、生んで欲しいと思ってる。だって俺と茜の子だろ」
「でも野球に影響しない?それに育てられるの?お金あるの?」
「野球には影響しねえよ。お金についてはいろいろ調べた」
「えっ!ひょっとして知ってたの?」
「知ってたよ」
「そうだったの・・・」
「それで、出産に金は必要ねえんだよ。病院代は42万円までなら市から降りるんだってよ。問題は子育てだよ。いつ生まれるんだよ」
「多分今3ヶ月ちょい前だと思うから、1月の始めぐらいには生まれると思うよ」
「という事はだな、学校卒業して4月から俺が働くとしたら・・・」
「子供が生まれてから、3ヶ月間収入無しって事ね・・・」
「学校辞めるしかねえな・・・」
「そんな、卒業まであとちょっとなのに」
「仕方ねえよ。自分が悪いんだからさ」
「真だけが悪いんじゃないよ。私だって悪いんだよ」
「茜、とりあえず夏の大会だけはやる。それが終ったら学校辞めて働くよ」そう言って真は笑った。
そんな真の言葉に、茜は黙り込んでしまった。
「茜、そんな顔するなって。茜がいなかったら、俺は今頃悪さばかりして退学処分になってたと思う。茜が俺をここまでにしてくれたんだ。俺と茜の子だ。だからなんとしてでも育てて見せる」
「でも・・・」
茜は下を向いて黙り込んだ。
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