フォーエバー・フレンズ -267ページ目

9、進路(1)

写真素材 PIXTA
(c) kurara写真素材 PIXTA

朝の横須賀駅。

由香子は恵に車椅子を押されながら、今日も通学をしていた。

そして駅を出ると、ヴェルニー公園を左手にみながら車椅子は進んでいった。

「恵、ごめんね」

「何?急に」恵は突然の由香子の謝りに、驚いてしまった。

「この間、恵がランキングに入らないのを、あたりまえって言ったじゃん」

「なんだ・・・そんな事か」

恵は由香子の毒舌にはもう慣れていた。

何故今さらそんな事で謝るのか?と言った感じだ。

「私、もう少し人に優しくなりたい。人に優しくしてあげて、人からも優しくされたい」

「由香子どうしたの?頭にボールでも当ったんじゃないの?」

そんな事を言い合っていると、二人は校門前の坂道へと差し掛かった。

恵はこの坂道が苦手だった。

そして「よし!」と言って、坂道を由香子の車椅子とともに駆け上がろうとした時、由香子は「恵、私も手を使う」と言い出した。

「どうしたの?由香子変だよ」

「いいから押して。私と一緒にこの坂上って」

そして二人は力を合わせて、校門前の坂道の登りきった。

坂を上りきると、由香子は「恵、ありがとう」と言った。

恵は由香子の突然の変化に、戸惑った。



6月に入り、県大会予選まで一ヶ月となった。

今年の神奈川県大会優勝候補筆頭の港南学院は、本日も熱心に練習を行っていた。

港南学院は、バカスカ打つチームのイメージが強いが、実はトリックプレーの達人でもある。

古屋監督は、そのトリックプレーの練習指導をしていた。

それはランナー1、3塁の時、わざと一塁ランナーを転倒させて、それに気を取られているうちに、3塁ランナーがホームへ突入する作戦だった。

一番嫌な点の取られ方は、エラーや、不注意による失点である。

ホームランによる失点はある意味開き直れるところがあるが、自チームの不注意による失点はとにかく後味が悪い。

港南はそんなトリックプレーがとにかく上手く、今日も古屋監督の指導の下、練習をしていた。

チームの雰囲気は明るく、これからやってくる予選会を今か今かと待ち望んでいるようだった。

そんな野球部の練習中、由香子は珍しく洗濯機を回していた。

そして洗濯を終えると、もみくしゃになった洗濯機の中のタオルを一枚一枚伸ばしながら、籠へと入れた。

すると司がやってきて「由香ちゃん、どうしたの急に」と言って驚いた。

「いい。今日から私がやる。司はやる事いっぱいあるでしょ」

由香子はそう言いながら、低めに張った洗濯ロープに洗いたてのタオルを干しだした。

洗濯物を干す由香子の姿を見た司は、少しドキッとしてしまった。

由香子の女性っぽいところを初めて見たからだ。

司は思わずその姿に、見とれてしまった。

「何じっとみてんの?早く行きなよ」

「あ・・・ああ、ごめん」

そう言うと司は走り去って行った。



司はあの日の晩から、由香子の事が気になっていた。

泣き喚きながら、坂道を上ろうとした由香子の姿が司の頭から離れなかった。

彼女にしたい女ランキングも2位に陥落、茜には引っ叩かれて・・・。

由香子は去年の夏の交通事故で、足が動かなくなってから急に気が強くなった。

それは、彼女としての強がりだった。

司は由香子のワガママにムカついてはいたが、なんとなく由香子のそんな一面にも理解を示していた。

「由香ちゃんて、可哀想な子なんだよな・・・」司はそんな独り言を言いながら、野球部の練習風景をずっと見ていた。



その日の帰りも、由香子は司に押されながら、家へと帰った。

二人で、御成通りを歩いていると、由香子が「恵、料理甲子園の決勝に行ったんだって」と言い出した。

「えっ?恵ちゃんがあの料理甲子園に?」

「そうだよ。恵って料理上手いんだよ。恵の家って共働きだから子供の頃からずっと家の仕事やってたんだよね。中1の頃恵の家に遊びに行ったら、淳紀にご飯作ってあげたりしてたもん」

「そうだったんだ」

「ねえ司、今週の日曜日恵の応援に行かない?新東京テレビ」

「うん、そうだね。行こうか」

すると由香子の家の前の坂道に差し掛かった。

由香子はその上り坂を見つめると「よし!行くぞ司!」と言った。

「おう!」

そう言うと、二人は力を合わせて全速力で坂道を上っていった。