9、進路(3)
茜にトイレに連れて行ってもらい、由香子はなんとかピンチを脱した。
そして二人は料理甲子園の会場へと、進んでいった。
しばらく二人は黙っていた。
そして由香子は茜に押されながら「この間はあんな事いってごめん・・・」と言って謝った。
「私も引っ叩いてごめん」茜も同じように謝った。
さらに由香子は「それに、トイレに連れてってくれてありがとう・・・」と言ってお礼を言った。
そんな由香子のお礼の言葉に、茜はあっさりと「困った時はお互い様じゃん」と言って笑った。
やがて二人が料理甲子園の会場に近づいてくると、会場の方から司が走ってきた。
そして「由香ちゃん!どこ言ってたの!勝手に行ったらだめだよ。心配してたんだよ」と言った。
由香子は司の言葉に、また涙ぐんできた。
そして「司、ごめん・・・」といって泣き出した。
「由香ちゃん・・・」
司は少し戸惑ったが、ハンカチを取り出して由香子の涙を拭いた。
茜はそんな二人を見ていると、なんとなく予感したのか自然にその場から去っていった。
そしていよいよ料理甲子園の決勝が始まろうとしていた。
司会者の挨拶が終わると、選手紹介が始まった。
『K1』のリングアナウンスのような調子で、次々と名前が呼ばれていった。
恵は舞台裏で、物凄い緊張感に襲われていた。
なにしろ今まで地味一筋に生きてきた恵にとって、これは生まれて初めての大舞台である。
小学校の学芸会は木か雲の役で、中学校の体育祭の100走ではいつも下位。
リレーでは、いつも誰かに抜かれる。
文化祭の合唱コンクールでもオンチの為、いつも周りの生徒に遠慮しながら歌っていた。
そして学校の成績は中の下・・・。
そんな恵は、陽一のおかげで料理という才能に気付き、今全国放送の収録に姿を現そうとしている。
「港南学院高校3年!やまのー!めぐーみー!!!!」
スタジオ内は、ドライアイスがたかれていた。
すると和服姿の恵がステージに現れた。
和服姿の恵は、どの出場者よりも輝いていて、観客から「おおお」という声があがった。
そして色違いの星のピアスが、両耳に光っていた。
だが、ステージのドライアイスで滑ってしまい、その場でステンと転んでしまった。
「キャッ!」
その瞬間会場から笑い声が起こった。
それを見た茜は「アチャー」と言ってうなだれた。
恥ずかしい!私って本当だめだな・・・。
そんな事を思いながら、恵は恥をしのんで、愛想笑いをしながら起き上がった。
そして決戦前のインタビューが始まり、司会者が恵の側へとやってきた。
「山野さん。今日は和服姿ですが、何か意味があっての和服なのですか?」
「あっ・・・はい・・・えーと・・・あの・・・えーと・・・」恵は緊張の為か、覚えていたセリフが全て飛んでしまった。
茜は「和食で勝負したいと思い、全て和で揃えましたってさっき練習したじゃん」と言ってまたうなだれた。
「恵らしい・・・」陽一は苦笑いをした。
そして言葉に詰まった恵は「ごめんなさい忘れました・・・」と言って、会場の人にすまなそうに謝まった。
するとまた笑いが起こった。
司会者は恵の緊張をほぐそうと思い「山野さんて、古風でかわいいですね」と言った。
その司会者の言葉に、恵はあろうことか「あっ・・・はい・・・そうですね」と言ってしまった。
再び会場から笑い声が起こった。
恵は緊張のあまり、もう何がなんだかわからなくなってしまい、頭の中が真っ白になってしまった。
由香子は見るに見かねて「恵!しっかりして!」と叫んだ。
その言葉に、恵は正気を取り戻し「と・・・とりあえず頑張ります!」と言って、礼をした。