フォーエバー・フレンズ -264ページ目

9、進路(4)

そして次に、8名の審査員が紹介された。

和洋中・・・全員その世界の巨匠達である。

その審査員の中に、横浜の会席料理の老舗である『蕪』の総料理長である北山道三という男がいた。

若干39歳にして老舗の総料理長となった、和食料理界の巨匠である。

北山料理長は、あえて難易度の高い和で勝負する恵に、少し興味を持っていた。



そして料理甲子園が始まった。

恵はスタジオに並べられた具材を選びだした。

伊勢えび、あわび、キャビア・・・豪華な具材ばかりだった。

「すごい・・・私が食べたい・・・」恵はつばを飲み込んだ。

そして次から次へと具材を取っていった。

料理が始まると、恵はさっきと打ってかわったように、集中して料理を作り出した。

まず1品目に取り掛かった。

まずは前菜・・・。

なんと恵は和食の前菜に、アボガドを具材として選び、オリーブオイルと混ぜてペースト状にした。

そして豆腐を小さく切り、その上にいくらとペースト状にしたアボガドを少しだけ乗せた。

豆腐の横には、軽く叩いた海老を置き、しその葉と海苔で盛り付けをした。

2品目は煮物。

京茄子があったので、煮物に使う事とした。

そして京茄子の煮物に、そぼろのあんかけをかけ、小さな木の葉で盛り付けした。

3品目は焼き物。

解禁されたばかりの鮎を使った。

鮎の体が波打つように美しく焼き上げると、その上にすり潰した胡麻と味噌とレモン汁を混ぜたものをさっと乗せた。



北山料理長は、恵の料理をじっと見ていた。

そして「味噌にまろやかさを出すのか・・・」とつぶやいた。



恵は再び具材を選びに行った。

そして伊勢えびを見て、少し考えた。

「どうしよう・・・上手くさばけるかな・・・・」

恵は、伊勢エビをさばいた事が無かった。

じっと伊勢エビを見ていると、突然伊勢エビが動き出した。

「ひえっ!無理!」

結局伊勢エビを諦めてしまい、普通の車海老を取って天ぷらを揚げた。

これは恵にとっては仕方なしの策だったが、北山料理長の目にはそうは映らなかった。

「いいタイミングで揚げるな・・・温度も最高だ・・・」

そして最初に、仕込んでいた『あさりご飯』と『お吸い物』を出すと制限時間の60分が経とうとしていた。

恵は「終わりました」と言うと、割烹着を脱いでスタジオの照明を見上げた。

そして「負けちゃった・・・」と言って微笑んだ。

伊勢えびをさばけなかったのが痛かった。

そして60分経過の合図である、ドラの音が「ゴワ~ン」と鳴った。



審査室で審査員達はもめていた。

北山料理長は恵を一番にしていたが、他の審査員達は4位にしていた。

「天ぷらがなあ・・・ちょっと普通すぎるよ」

「もっと凝ってもらいたいよね」

そんな意見が大半の中、北山料理長は「あなた達は和食を理解していない。あの天ぷらの揚げ方はセンスがいいんです。温度とタイミングに寸分の狂いもない」と言い張った。

しかし和食専門は北山料理長だけで、イタリア料理2名、フランス料理2名、中華料理2名、韓国料理1名という審査員の構成で、和食をメインにした恵には不利だった。

そして結局恵は4位に終わってしまった。



収録が終わると恵は、スタッフ全員に「ありがとうございました」と言って挨拶をした。

そして少し涙ぐみながら、みんなの所へと言った。

「恵、よく頑張ったね?」と言って茜は恵を抱きしめた。

「茜、有難う」

そして恵はみんなと手を取り合った。

だが陽一だけは腑に落ちなかった。

「こんなのアンフェアだよ。大体和食の専門家が一人しかいないじゃないか。最初から洋食有利なんだよ」

まるでサッカーの敗戦チームの監督のようだった。

「いいの陽一。私うれしいの。だってこんな大舞台に立つ事ができたんだもん」

「俺、苦情言ってくるよ」

「陽一!ダメ!」

スポーツマンの陽一は、この不公平な審査がどうしても気に入らなかったが、恵に止められて引き下がる事にした。



そしてその日の晩、恵は由香子と一緒に鎌倉駅で降りた。

「恵、惜しかったね」

「仕方ないよ。それに楽しかった」

「ねえ伊勢エビで何作る気だったの?」

「伊勢エビの和風グラタンを、作りたかったの」

「そうなんだ」

「でも無理だよ。それやったとしても、時間が足らなかったと思うよ」

そんな事を言いながら、二人は御成通りを歩いた。

「恵、質問」

由香子はそう言って手を上げた。

「何?」

「恵は陽一の何処が好きになったの?やっぱ一目ぼれ?」

「ううん、最初は嫌いだった」

「どうして?陽一かっこいいじゃん」

「ぶっきらぼうだったの。何も喋ってくれないし・・・」

「じゃあ、どうして好きになったの?」

「う~ん、がむしゃらな所が好きだった。俺には野球の血が流れてるから、たった3人の野球部でも野球やるって言って・・・。でも最近は宇宙人のようなところが可愛いかな」

そう言うと恵は笑った。

「そうなんだ・・・」

「なんでそんな事聞くの?」

「愛って何だろうと思ってね。私、今一人の人を好きになってるんだ」

「そうなの?誰?」

「司だよ」

「えっ!そうだったの?」

「だってあいつが私の面倒一番みてくれるもん」由香子はそう言いながら笑みをこぼした。

すると二人は、由香子の家の近くの坂道に差し掛かった。

「昨日司と一緒に、この坂道を全力で駆け上がっていったんだ。その時私思った。つらい事を一緒に乗り越えていける人こそが大切だって」

恵は由香子の話を黙って聞いていた。

「だから私、司と付き合う」

「えっ?でも司君が付き合うっていったの?」

「あいつに有無は言わせない。私が付き合うと言ったら付き合う。ただそれだけ」

「由香子らしい・・・」恵は思わず笑ってしまった。

由香子は坂道を見つめながらそう言うと「恵、押して。一緒にこの坂道を越えて」と言った。

「わかった。じゃあ行くよ!」

恵は車椅子を押して走り出すと、由香子も手で車輪を回した。

そして二人は力を合わせて上り坂を駆け上がって行った。