フォーエバー・フレンズ -263ページ目

9、進路(5)

そして次の日、野球部の練習中、部室の中で由香子は司へ告白をした。

「えっ?由香ちゃんもう一回言って」

「だから付き合ってあげるって言ってるの」

「どこに?」

「司、喧嘩売ってるの?私と付き合えって言ってるの」

「ひょっとして・・・それって恋人になるって意味?」

「そう」由香子は自信満々にそう答えた。

「えーーー!!!由香ちゃん僕だよ?オタクだよ?」

「オタクだから、彼女もいないでしょ。だから私が付き合って あ・げ・る」

「由香ちゃんが?・・・・」

司は悩んだ。

自分が由香子のワガママに耐えていけるかがわからなかった。

すると由香子はニコッと微笑んだ。

「か・・・かわいい・・・」司は由香子の瞳に見とれてしまった。

そして「宜しくお願いします!」と言って深く礼をした。

「素直でよろしい」

恋愛のベテラン由香子にとっては、司なんてちょろいものだった。

恋多き由香子が数番目に選んだ男。

それは、自分の為に一番尽くしてくれる司であった。

果たして今度は長く続くのだろうか・・・。



数日後、一人の中年男性が学校へとやってきた。

その男の名は、北山道三。

そう、横浜の老舗会席料理『蕪』の若き総料理長で、料理甲子園の審査員でもあった男だ。

北山料理長の訪問の目的・・・。

それは、恵に会う事だった。

昼休み、恵は校長室へと呼ばれた。

なんだろうと思い、少し緊張しながら「失礼します」と言って校長室の扉を開けた。

すると、上座のソファーに北山料理長が座っている事に驚いた。

「あ・・・あなたは、料理甲子園の・・・」

「審査員だった北山です」北山料理長はそう言うと、笑顔で恵に挨拶をした。



北山料理長の訪問に、仁科先生が対応していた。

恵は仁科先生の隣に、少し不安げな表情を見せながらすわった。

すると北山料理長が切り出した。

「山野さん、俺の顔覚えてくれてたんだ」北山料理長はそう言うとニコっと笑った。

「はい・・・」

「俺は君の料理を食べてみて、少し感動してるんだよ」

「あっ・・・有難うございます!」恵は嬉しさのあまり、思わず立ち上がって礼をした。

「ただ・・・まだ荒削りなんだよ。君は心だけで料理を作っていると思う」

「心・・・ですか?」

「うん、料理というものは人の心が表れる。今の君の味は『おふくろの味』だ。しかし料理人にはそれにプラスしてシビアさという物が求められる。お金を払ってくれる人に食事を振舞うんだから・・・」

恵は黙って北山料理長の話を聞いた。

「シビアさと言うものは、仕事をする事で培っていく。しかし土台の心と言うものは、もって生まれたものだ」

「あの・・・料理の心ってなんでしょうか?」

「美味しく食べてもらいたいと思う気持ちだよ」北山料理長はそう言うと、恵に微笑んだ。

すると仁科先生が「あの・・・本日我校へ来ていただいた目的は何でしょうか?」と恐る恐る聞き出した。

「山野さんに、当店つまり『蕪』の料理人になってもらいたくて、やってきました」

「えっ!」仁科先生と恵は目を見開いて驚いた。

「山野さんの卒業後の進路が決まっていないなら、我店に来ていただけないかな。実は来年の4月に、横浜ランドマークに店を出すんですよ。そこで働いてもらえないかな?勿論修行しながらですがね」

あまりにもの突然のスカウトに、恵は黙り込んだ。

「どうする山野さん?」仁科先生は、黙り込む恵に優しく尋ねた。

「あの・・・少し時間をいただけませんか」

「いいよ。いつまでかな?」

「11月まで待ってくれませんか?ダメですか?」

北山料理長はしばらく天井を見上げて考えた。

そして「わかった。いい返事期待してるよ」と言った。



11月、それは恵にとって人生の分岐点がやってくる月であった。

『プロ野球ドラフト会議』が行われるからである。

連日プロ野球のスカウトが、陽一を目当てに学校へ来ていた。

そして週刊誌の下馬評でも、陽一は少なくとも6球団から一位指名を受けると書かれていた。

その候補は『福岡ソフトバンク』『西武』『北海道日ハム』『横浜ベイスターズ』『阪神』『東京ヤクルト』・・・。

陽一の口からは何も聞かないが、そんな情報を聞いて恵は、自然と『プロ野球』の制度を調べだしていたのだ。

恵は陽一に『横浜ベイスターズ』へ行って欲しいと願っていた。

首都圏の球団であれば、この神奈川の地にとどまって、料理の仕事をしようと思っていたからだ。

しかし『福岡ソフトバンク』や『北海道日本ハム』のような地方球団に行くようであれば、付いて行こうとも考えていた。



付き合いだしてからもうすぐ1年。

そんな二人に、とてつもなく大きな人生の流れがやってこようとしていた。

それは、野球の天才として生まれた陽一、そしてそんな陽一は好きになった恵・・・。

これはそんな二人にとっての宿命であった。



鎌倉の町に、再び夏がやってこようとしていた。

また熱い夏がやってくる。