フォーエバー・フレンズ -261ページ目

10、新たなる強敵(2)

七夕の日。

陽一と恵が付き合いだして、今日で一年が経った。

二人は帰り道、いつものように街灯の明かりが灯るヴェルニー公園を歩いていた。

そして陽一は夜の横須賀軍港を見ながら、恵に自分の進路について話し出した。

「恵、俺プロに行くよ」

「それでいいの?」

「本当は六大学で野球やってみたいけど、4年間も稼ぎ無しじゃお金が持たないんだ」

陽一の家計は、事故で航空会社から多額の慰謝料こそ入ったが、マンションのローンの返済でかなり飛んでしまった。

たとえ授業料は無料であっても、大学で野球をやれば遠征費だって馬鹿にならない。

とても『東京六大学野球』どころではなかった。

「でもプロ野球チームって北海道や福岡にだってあるんだよね。もし指名されたらどうするの?」

「指名を受けたら何処へでも行くよ。このチームじゃなきゃ出来ないっていう考えは嫌いだから・・・」

恵はしばらく夜空を見ると少し微笑んで「もし北海道や福岡に行く事になったら、私・・・付いて行ってもいいかな?」と言った。

「鎌倉の町から出ても大丈夫なのか?」

「外国にいくわけじゃないじゃん。なんとかなるよ」

恵にとってこれは一大決心である。

この恵の言葉は、陽一に生涯付き添っていくと言う意味でもあった。

「お父さんは許可してくれるのか?」

「もう言った。適当にやれって感じだった」

恵は父親に言われた事を陽一に打ち明けた。

すると陽一は大笑いをした。

「ははは、お父さんらしいな」

「でもね、私この間料理甲子園に出た時の審査員だった人にスカウトされたんだ」

「誰だよ?」

「北山道三って人。会席料理『蕪』の総料理長だよ。ランドマークにお店出すんだって」

「えっ?あの『蕪』?恵、名店中の名店だぞ」

「だから陽一がもし近くの球団に行ったら、私そこで働く。でも陽一が遠くにいくようであれば、『蕪』を諦めて陽一に付いていく。そして次に住む場所で料理のお仕事探す」

「いいのか?そんな簡単に諦めて」

「いいの。私は陽一が一番大切」


いよいよ神奈川県大会の予選が始まった。

港南学院高校はシード校として、2回戦からの出場となった。

そして初戦の相手は、東亜大川崎といい、昨年夏は3回戦まで進んだチームだ。

7月のジリジリと照りつける日差しで、路面には陽炎が沸き立っていた。

今ここ保土ヶ谷球場で、港南学院の初戦が始まろうとしていた。

保土ヶ谷球場の廊下を、仁科先生、古屋監督、陽一、真の順に次々と選手がベンチへと向かっていった。

そして、マネージャーの弥生が一番最後にベンチに入っていった。

由香子は・・・。

由香子は、ベンチが狭く車椅子の移動が困難な為、ベンチ入りを控えたのだった。


1年前と違い、王者の風格が備わっていた。

そして、ベンチから次々と選手達がフィールド上へと出て行った。

この保土ヶ谷球場より、陽一達の熱い夏の戦いが今始まろうとしていた。


港南学院高校は、後攻めとなった。

そして主審の「プレイボール!」の掛け声で、試合は始まった。

マウンドに立つ一年生エース清志朗は、鋭い目つきでバッターを睨み付け「絶対負けねえ」と言うと、大きく振りかぶった。

「おら!」と言う声を張り上げ、鋭く右腕を振り下ろした。

すると、気持ちのこもったストレートが、淳紀のミットにズバンと音を立てて納まった。

「ストライク!」

「清志朗君!ナイスボール!」淳紀は清志朗にそう言って、ボールを返球した。

「淳紀行くぜ!」

清志朗の気合の入ったピッチングが始まった。

針の穴をも通すコントロールは、時折ビーンボールを交えながら、空振りの山を築いて行った。

「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」

主審の声が、観客のいない保土ヶ谷球場に響き渡った。

そして、文麿のバットが火を噴いた。

いきなり先頭打者ホームラン。

文麿らしい、ど派手な始まりだった。

続く修二はライト前ヒット、そして陽一もセンター前ヒット、真もライト前ヒット。

そして次、5番の高瀬川俊介。

淳紀に、正捕手の座を奪われファーストを守るようになったが、バッティングセンスは、淳紀をはるかに上回る。

その俊介は、東亜大川崎の投手から、本塁打を放ったのだ。

満塁ホームランで、港南学院は1回裏に一気に6点を奪った。

満塁ホームランを放った俊介がベンチに帰ってくると、仲間達は彼をハイタッチで出迎えた。

正捕手の座を奪った淳紀も、ハイタッチを求めてきたが、俊介は「お前とはハイタッチはしない」と言った。

あの日以来、俊介は淳紀を避けていた。

「俊介君・・・」淳紀が悲しそうな顔をすると、俊介は「お前とはこうするんだよ」と言いながら右手を差し出して、握手を求めてきた。

「俊介君」淳紀は笑顔でそう言うと、俊介と固く握手をした。

港南学院にとって最高のスタートだった。

なんと初戦を15―0で2回コールドで勝利したのだ。


去年と同じように、恵の携帯に陽一からのメールが届いたのは3時間目の休み時間だった。

『初戦突破!』と書いてあった。

「去年と同じ文章じゃん」恵はそう言うと、画面を見ながら微笑んだ。