フォーエバー・フレンズ -259ページ目

10、新たなる強敵(4)

恵と司と由香子の3人は、陽一に引きつれてこられるように、由比ガ浜へとやってきた。

そして陽一はみんなの見てる前で、堂々と野球のユニフォームに着替えだした。

「陽一!こんなところで着替えないで!」と言う恵の叱責も無視して、陽一は野球のユニホームへ着替えると、砂浜へと走っていった。

そして「司!見てろ!」と叫び、スライディングを始めた。

陽一のスライディングは、少し足を上げ気味にするスライディングだった。

「殺人スライディングだよ」陽一は笑って司にそう言うと、何度も何度も砂浜の上で、その殺人スライディングの練習を続けた。

しばらくすると、陽一は浜辺にいる3人のところに駆け寄ってきた。

「司、俺は鎌倉シニアでも仙台学園でも、この殺人スライディングの練習をした。それだけじゃない。サンドバックをキャッチャーに見立てて、タックルをする練習もした。逆に殺人スライディングを食らった事もあった」

そう言うと陽一は、左足の裾を思いっきりまくり上げた。

すると陽一の左ふくらはぎに、10針程の縫った傷跡があった。

「中3の頃ポジションはショートだった。盗塁してくるランナーをタッチしようとした時にやられた」

司は黙って、陽一のふくらはぎの傷跡を見続けた。

「でも、俺はこの傷をつけたランナーの事を恨まなかった。それをかわせなかった自分が悪いんだよ」

司は黙って下を向いた。

「司、野球は戦いだよ。綺麗なプレーもあれば、時には汚いプレーだってある。勝つ為には綺麗事だけ言ってはいられない」

司は納得こそ出来なかったが、百戦錬磨の陽一の言っている事に物凄い説得力を感じ、結局は何も言えなかった。


次の日、司は陽一のストレッチに付き合っていた。

陽一の体は、恐ろしい程柔軟な体で、マタワリもできた。

司が、陽一の背中を押すと、お腹と胸が地面にベチャリと付いた。

「すごい軟らかい・・・」

「ケガしない為にも、ストレッチは大切なんだよ」陽一はそう言うと、ひたすら柔軟体操を続けた。

「徳永君」

「うん?」

「ごめん。僕は綺麗事ばかり言いすぎた。所詮机上の空論を並べているだけなんだ」

「違うよ」

「そうだよ」

「違う。去年司がいなければ、俺達は予選準々決勝で負けてた。司がピッチングフォームを盗めたから勝てたんじゃないか?司の言ってる事は決して机上の空論じゃない」

司はしばらくして「ねえ徳永君。沢尻をデッドボールで潰すっていう作戦だけど、もう少しまってくれないかな?僕にもアイデアを出させて欲しいんだ。もし他に作戦が無ければ、僕はそれで納得する」

陽一は司に背中を押されながら考えた。

そして「わかった。監督にもそう言っておく」と言った。

「徳永君、ありがとう」


4回戦。等々力で、浦賀中央高校との戦い。

そしてこの日は真が大爆発し、2ホーマーを放った。真は今大会3本目のホームラン、陽一は1ホーマーで、真と並ぶ今大会3本目の本塁打を放った。

9―0で、7回コールド勝ち、清志朗はいまだに無失点だった。

しかしこの日、選抜出場校の武南が敗れた。

強豪武南高校を倒したのは、沢尻率いる湘陽大付属だった。2―0のシャットアウト、しかもノーヒットノーラン。

武南高校は沢尻に全く歯が立たなかったのだ。

この事件により、沢尻は一気に脚光を浴びる事となった。

そして地元新聞社は、ひょっとして港南でも歯が立たないのではと騒ぎ出した。

陽一達の前途に暗雲が立ち込めた。


次の日もミーティングを行った。

今度は修二がアイデアを持ってきた。

「バントで、攻めましょう」

「どういう事だ?」陽一は自信満々にそう答える修二に尋ねた。

「沢尻の投球を見てると、投げ終わった時に、体が右に流れるんです。だから、その反対側のピッチャーの左側にバントをするんです。つまり一塁との間です。そうすれば連携時にミスをしてくれると思います」

古屋監督は「うん。いい作戦かもな。だけど一回しか通用しないぞ」といった。

「7回以降がいいと思います」バント職人の修二はそう答えた。

しかしまだ作戦が甘い。

司は黙って考えていた。


そして家に帰っても、パソコンで何度も沢尻の映像を見直した。

沢尻は変化球が無い為、モーションのクセを盗む意味はない。

「どうしようか・・・・」司はそういうと、部屋の天井を見つめた。

すると本棚の上に横倒しになっている漫画本が目に入った。

『明日天気になあれ』

何年か前に、古いのでもう読まないと思い、本棚の上に置いたのだ。

「ちゃー、しゅー、めん。ちゃー、しゅー、めん」

考え事をしながら、ひたすら「ちゃー、しゅー、めん」と独り言をいい続けた。

そして再びパソコンの画面に映る、沢尻のピッチングの映像を見た。

「ちゃー、しゅー、めん。ちゃー、しゅー、めん・・・・うん?」

司は黙って映像を見続けた。

そして何かに気付いたように「そうか!わかった!」と言った。


次の日は5回戦だった。

夜半から降りだした雨が止もうとしていた昼前、平塚球場で港南学院は小田原工業と戦っていた。

そして、小雨の降る中陽一のバットが火を噴いていた。

なんと陽一は、3本のホームランをバックスクリーンに叩き込んだのだ。

これには新聞記者やスカウト達は度肝を抜かれた。

5回戦目で、すでに6本塁打。恐るべし高校生だった。

結局港南学院は、11―0で3回コールド勝ちを収め、準々決勝に駒を進めた。


その日、選手達は学校に帰ってミーティングを行った。

議題は、沢尻攻略についてであった。

司は部室の壁に、沢尻の映像を映し出すと熱弁を始めた。

「灯台下暗しなんだよ。もっと簡単に考えればいいんだ」

部員達は、黙って司の話を聞いた。

「いい?チャー、シュー、メン。のタイミングで打つんだよ」

「チャー、シュー、メン???」部員達は一斉にそう言うと、笑い出した。

文麿は笑いながら「司!お前馬鹿だろ。ゴルフじゃねえんだぞ」と言った。

すると司は、映像を見ながら「見てて」と言い、沢尻のモーションに合わせて「チャー、シュー、メン」と言った。

沢尻のタイミングと『チャー、シュー、メン』はドンピシャだった。

部員はしばらく「チャー、シュー、メン」と言いながら、沢尻の投球映像を見つめた。

司は「簡単に考えればいいんだよ。球種はストレートのみなんだから」

「そうか・・・」陽一は改めて司に感心した。

難しく考えすぎていたのだ。

「これで打ち崩せるとは言えない。やはり沢尻は速いからね。でも武南のように完全に封じ込まれる事は無いと思うよ」

すると古屋監督が「わかった。これでいこうか・・・。それと最後に俺から補足がある。文麿」と言って、文麿を見た。

「なっ、なんだよ監督」

「対沢尻戦は、お前がキーになる」

「どういう意味だよ」

「お前の出した結果で決まる」

古屋監督は、それ以上の事は言わなかった。


港南学院が、何回もミーティングをして出した沢尻対策。

まず、『チャー・シュー・メン』のタイミングで打つ事、そして後半にセフティーバントで攻める事。そして文麿に古屋監督がなんらかの指示を出す。

そして試合の状況が悪ければ、最終手段として清志朗が、沢尻の足首を狙う事となった。