フォーエバー・フレンズ -258ページ目

11、恋(1)

野球部のグラウンドから連日「チャー・シュー・メン」という掛け声が聞こえていた。

バッティングマシーンの球を打ちながら、チャー・シュー・メン。

素振りをしながら、チャー・シュー・メン。

異様な光景に、港南学院の生徒達は怯えていた。

恵も、そのチャー・シュー・メンの掛け声を不気味に思い、由香子に聞いてみたが由香子は「企業秘密」と一言だけ言って、口をふさいだ。

実は古屋監督は、この練習の目的を絶対に他人に話してはいけないと命令していた。

この事が湘陽大付属にばれてしまうと、沢尻はワンテンポずらして投球するようになるからである。

この閉口令は、不気味さをよりいっそうに醸し出した。



チャー・シュー・メン

チャー・シュー・メン

陽一も真もひたすら「チャー・シュー・メン」と言ってバットを振り続けた。

文麿も、修二も「チャー・シュー・メン」

俊介も、淳紀も「チャー・シュ・ーメン」

まるで、新興宗教のようだった。



恵と茜は、コロンブスの休憩室で一緒にその『チャー・シュー・メン』について話していた。

「本当に気味が悪いの」恵はおもむろに口を開いた。

「そんな事やってるんだ」

1ヶ月に一回しか学校に来ない茜は、その不気味な集会の事は知らなかった。

「陽一に聞いても、何も教えてくれないんだ」

「私、真に聞いてみようかな」

「多分教えないと思うよ」

恵は内緒と言われると、尚更知りたくてたまらなかった。

だが陽一は、恵にもこの秘密は話さなかった。

そしてその日の晩。

陽一と恵は一緒に帰った。

「お願い、教えて。一生のお願い」

「ダメ」

「私のお願い聞いてくれないの?」

「ダメ」

「あー!知りたい!知りたい!もう!」恵は珍しく駄々をこねた。

しかし陽一は「ダメ。絶対に教えない」と言って、意地でも口を割らなかった。



弥生と文麿も同じように、京急に乗って帰っていた。

「古屋監督の言ってた、文麿さん次第で勝負が決まるってどういう事だろ?」

「あのオッサンの考えてる事はわかんねえよ」

「どういう意味だろ・・・」

すると電車が、ガタンと言って大きく揺れた。

弥生はバランスを崩しそうになった。

弥生は右足で踏ん張ると、アキレス腱切断の後遺症がでる。

「あっ」と言って、右足で踏ん張ろうとすると、文麿は弥生の腕をガシッと握った。

おかげで弥生は痛い思いをせずに済んだ。

「ありがと・・・」弥生がそう言うと、文麿は弥生を扉側にもたれさせた。

「そうしとけ」文麿はぶっきらぼうにそう言った。

そして黙って、京急の電車の窓の外の夜景を見つめた。

「ねえ、文麿さん」

「なんだよ」

「私が痛いって言うのなんで嫌なの?そんな大きな声だしてないじゃん」

「嫌なんだよ・・・女が痛いって言うの・・・」

「どうして?」

「いいたくねえ」

「由香子さんの事?」

弥生にそう言われると、文麿は黙り込んだ。



二人はその後、途中下車し、なんとなく山下公園へとやってきた。

そして、一年前の文麿と由香子のように、黙って海を見続けた。

「俺、由香子を歩けなくした事から、立ち直れてないんだよ。弥生が痛いって言うと、あの事故の事思い出すんだ・・・」

「でも、由香子さんは元気にやってるじゃん。それに文麿さんが全部悪いんじゃないでしょ?」

「俺が生半可な気持ちでバイクに乗せたから悪かった。あの時由香子をバイクに乗せなければ、あいつはまだ歩いていた」

そう言うと文麿は黙って海を見続けた。

「あのね・・・私よくわかんないんだけど、由香子さんは歩けなくなって見えた事もいっぱいあるんじゃないかな?」

「どういう事だよ?」

「由香子さんて美人じゃん。それに武勇伝聞くと結構遊んでたそうだし。由香子さんが今でも歩けていたら、司さんの優しさにも気付かなかったと思うよ。歩けない体になって本当に人の優しさを知るようになったと思う」

弥生のその言葉に、文麿は黙り込んだ。

「文麿さんが心配しなくても、由香子さんはタフに生きると思うよ」

弥生の言うとおりであった。

由香子はあの事件後、一ヶ月だけ文麿と付き合ったが、結局破局に終わった。

そして動かない足の件は一切言わないと言って、文麿に別れを告げた。

その後由香子は、事故の件で文麿を責めた事は一度もなかった。

それから由香子はいろいろな苦悩をしながらも、司という大切なパートナーを見つけた。

由香子は文麿が思うほど弱くは無かった。文麿の自暴自棄であった。

「そうだ!文麿さん!ラーメン食べに行こうよ」

「えっ・・・」

「近くに『金竜』って言う美味しいラーメン屋があるんだ。とんこつラーメンだよ」そう言って弥生は白い歯を見せて笑った。



そして二人はその『金竜』と言う店のとんこつラーメンを食べた。

「どう?美味しい?」弥生は美味しそうにズルズル音を立てながらラーメンを食べた。

「美味い」文麿も夢中でラーメンをすすった。

「でしょ」

文麿はとんこつラーメンを食べながら、夢中でラーメンを食べる弥生の事をチラチラと見た。

「こいつ大盛り食うのかよ・・・よく食う奴だな・・・」

そんな事を思いながら、笑みをこぼしながらラーメンを食べた。



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