11、恋(2)
準々決勝。
港南学院の対戦相手は、共栄大相模高校。
昨年関東大会に進出した、新たな強豪である。
夏休みに入った為、昨年同様応援席にブラスバンドがやってきた。
そして応援席に茜と恵は・・・いなかった。
茜は、出産前に沢山お金を稼ごうと思い、最近はフルタイムでコロンブスで働いていた。
恵は・・・。
恵は、冷やかされたりするのが嫌で、試合には来なかった。
全校生徒に陽一と付き合っている事を知られていて、自分の顔を知っている報道関係者も少なくない。
別に未成年の恵を記事にする事もないが、記者達に「恵ちゃん、徳永君勝つといいね」とか言ってちょっかいをかけられるのが嫌で、試合会場へは足を運ばなかった。
由香子なら、喜んで出てくるのであろうが、地味な恵はそう言った事がどうも苦手だった。
だからと言って、陽一も真も寂しがったりはしなかった。
付き合いだしたばかりの去年はみんなフワフワしていたが、今年はみんな気持ちが成熟していたからだ。
試合前に、「負けたらどうしようと」言って恐がっていた恵の姿はもうなかった。
恵は陽一の家の液晶ビジョンで試合を観戦し、夕方は茜のいるコロンブスに行ってバイトをする事となった。
陽一の部屋で、新メニューの『柚シャーベット』の開発をしながらテレビで試合を見ていた。
「陽一、淳紀、頑張って」
いつのまにか恵は、陽一の家を我家のようにしていた。
準々決勝を行う横浜スタジアムの気温は朝の10時でなんと35度。
ベンチの中で、仁科先生は扇子で自分の顔を扇いでいた。
「ベンチの中って本当に熱いですねえ・・・」
「慣れませんか?」古屋監督は、汗ばむ仁科先生にそう言った。
「去年はまだ緊張してたから、そんな事考えていられなかったんですが・・・」
仁科先生も成熟していた。
なにしろ昨年の夏の甲子園準優勝高の部長である。
そんな中、グラウンドでは選手達が守備練習をしていた。
陽一は外野守備の練習をしながらふとスタンドに目をやると、沢尻がいる事に気付いた。
大きいので物凄くよく目立った。
「沢尻・・・」
沢尻は真剣な表情で、陽一を見ていた。
そしていよいよプレーボール。
港南学院高校は、後攻めだった。
清志朗は、大きく振りかぶって、第一球を投げた。
「ボール」
膝元スレスレのシュートだった。
「ちくしょう・・・ストライクだろ」ブツブツと文句を言いながら、清志朗は第二球を投げた。
アウトロースレスレのストレートだった。
「ストライク!」主審の声が響き渡った。
そして第三球、アウトローのスライダーで、ストライクゾーンからボールへと逃げる球だった。
バッターは空振りしてしまい、これでツーストライク。
「よっしゃ!」
そして最後、清志朗は胸元スレスレのシュートを投げた。
するとバッターは完全に差し込まれてしまい、大きなキャッチャーフライを打ち上げた。
淳紀はその高く上がったフライをしっかりとキャッチした。
沢尻は、湘陽大付属の選手達と一緒に黙って清志朗のピッチングを見ていた。
そして「なるほどな・・・」と呟いた。
「カイ、なんかわかったか?」隣にいた湘陽大付属のキャプテンの近藤は沢尻に尋ねた。
「打線は全部俺が抑えてやる。しかし問題はこの大谷って奴を打てるかどうかだな」
「打てない球じゃないだろ?135kmぐらいだ」
「バッターボックスに立つとわかる。こいつの球は簡単には打てない。だからここまで無失点なんだよ」
沢尻にそう言われると、近藤は黙り込んだ。
一回表、清志朗は共栄大相模を三者凡退に討ち取った。
港南ナインが一斉にベンチへと引き上げてきた。
それと交代するかのように、司は3塁のコーチャーズボックスへと走っていった。
共栄大相模の投手は右投手で、140キロ弱の速球と縦のカーブが武器だった。
投球練習を、司はずっと見ていた。
そして「さすがだなあ。ベスト8までくるピッチャーはやはり違う」と言った。
そして文麿がバッターボックスへと立った。
茜は、少し早めにバイト先へとやってくると、店長がその予選を見ていた。
「茜ちゃん!大変だよ!」
「なっ何、店長大きな声だして」
「港南が負けてる!」
「えっ」
茜は休憩室のテレビ画面を食い入るように見た。
すると港南学院は2―0で負けていた。
「ありゃ・・・」