11、恋(4)
試合が終わると、由香子は弥生にアイスクリームを奢ってあげた。
そして二人して、昼下がりの横浜スタジアムの外で、花壇の縁にすわりながらアイスクリームを食べた。
「美味しい」食べる事が大好きな弥生は、とても満足だった。
「そうかなあ」
「美味しいよ」
弥生は汗ばむ由香子の顔を、ハンカチでそっと拭いた。
由香子の肌を真近でみると、弥生は「由香子さんて本当に綺麗だなあ・・・」と改めてそう思った。
すると由香子が「文麿といい関係なんじゃない?」と聞いてきた。
「えっ?」弥生は突然の由香子の言葉に驚いた。
「でしょ?」
「ち・・・違います」
「私に気使わなくていいよ。奴とは終わったんだから」
弥生はしばらく下を向いていた。
そして「あの・・・由香子さんはなんで文麿さんと別れたの?」と聞いてきた。
「う~ん・・・結局合わないんだよね」と言って由香子は笑った。
そして「私も文麿もワガママだもん。お互い何かをして欲しいばっかりでさ」そう言うと、由香子は横浜の空を見上げた。
「陽一と恵もそう。真と茜もそう。司と私もそう。合うもの同士って言うのは、なんとなく自然にくっついていって、ある日その人の大切さに気付くんだよね」
弥生も由香子と同じように、横浜の青空を見つめた。
「私と文麿さんって合うのかなあ・・・・」
「合うと思うよ。弥生ちゃん面倒見いいしさ。あいつ甘えんぼだから」
茜は生まれてくる子供の為に一生懸命働き、由香子は新しい恋を見つけ、弥生は今一人の男性を気になりだしていた。
さまざまな青春が流れていく。
うん?誰かを忘れていないか?
そうだ。
恵を忘れていた。
恵は・・・。
なんと陽一の家のソファーの上で、試合の結果を見ずに寝てしまったのだ。
8階にある陽一の家は、ベランダから部屋へと心地よい風が入ってくるので、気持ちよくなっていつのまにか寝てしまった。
ソファーの横のテーブルの上には『柚シャーベット』を食べた後の食器が置かれていた。
恵はふと目を覚ますと、午後2時になっていた。
「あれ・・・寝ちゃった・・・。試合どうなったんだろう・・・あっ!やばい!もうこんな時間だ!」
恵は今日の陽一の晩御飯を作り終えると、急いでバイト先へと向かっていった。
いよいよ準決勝の日がやってきた。
対戦相手は、小田原の鷲野高校であった。
その日は朝から小雨がぱらついていたが、試合は予定通り決行された。
そんな雨の中、清志朗は序盤から苦しい展開になっていた。
微妙なコントロールが武器の清志朗は、雨の為に指先が滑ってしまい、ことごとくボールと判定されていた。
それに、微妙なコースでも、審判のジャッジは厳しく「ボール」と宣告されてしまう。
「畜生!クソ審判!」清志朗の怒りは、頂点に達していた。
1回表、なんとノーアウト満塁のピンチ。
カッカする清志朗をなだめようと思い、淳紀はタイムをかけて清志朗の立つマウンドへと駆けて行った。
「清志朗君、落ち着きなよ」
「あの、主審気にくわねえ!殴ってやりたい」
すると今度はベンチから司が走ってきた。
「どうしたの?」
「もう嫌になるぜ。雨でボールが滑るし、主審のジャッジは辛いしさあ・・・」清志朗はマウンドの土を蹴ってそう言った。
「淳紀君、主審に言って、マメにボール取替えてもらって」
「それが・・・主審にそれを言うと、高校生が生意気言うなって言われるんです」
司は淳紀からそう言われると、雨空を見上げてしばらく考えた。
ルール上、主審はプレイヤーのボール交換の要求には、応じなければならない。
しかしそれをたてにして咎めると、不公平なジャッジをされかねない。
司はその事をずっと考えていた。
そして「よし、わかった」というと全選手をマウンド上に集めた。
文麿は「また司の屁理屈かよ」といいながら、面倒臭そうにマウンドへとやってきた。
そして司に「何だよ」と言った。
「みんな、今日は主審をお客様と思ってほしいんだ」
司がそう言うと、文麿は「はあ?」と言って、目を細めた。
「なんで審判ごときに!」
すると陽一が「司の言う通りだ。ウチのチームは、ちょっとマナーが悪すぎるよ」と言った。