11、恋(5)
その通りだった。
港南学院は強くて有名であったが、マナーの悪さでも有名であった。
清志朗は、ストライクをボールと判定されれば主審を睨み付けたり、文麿は「何でストライクなんだよ!」と言って、審判に食ってかかる事が多々あった。
まさしく古の『東映フライアーズ』顔負けのチームである。
真は大人の一面があったので大丈夫だったが、この二人は連盟からも目を付けられていた。
そして今日の主審は、この道30年のベテラン審判であり、いわゆる昔気質のガンコ親父であった。
はっきり言って『アンチ港南学院』である。
司は、淳紀から主審がボールを取り替えてくれないと聞いて、咄嗟にこの審判が港南に不利なジャッジをすると感じ取ったのだ。
文麿と清志朗は陽一にマナーの悪さを咎められると、しぶしぶ司の指示に従う事とした。
そして最後、司は淳紀にヒソヒソと耳打ちをした。
すると淳紀は元気よく「わかりました」と言って、ニッコリと笑いながらホーム上へと帰って行った。
淳紀は主審に「雨の中、長々とタイムをしてすみませんでした」と言って、深く頭を下げた。
清志朗もしぶしぶ帽子を取って一礼した。
この港南らしからぬマナーの良さを見て、主審は戸惑った。
清志朗は、セットポジションからボールを投げた。
するとまた際どいコースだった。
主審は迷わず「ボール」と判定した。
淳紀は「ナイスジャッジ!この際どいボールをよく見ましたね」と言って、主審を褒めた。
主審は意外な港南学院の一面に驚いてしまった。
そして第二球目、これもきわどい球だった。
「う~ん・・・ストライク!」
「さすがあ!ナイスジャッジ!僕なら見えないですよ。さすがベテラン。勉強になります」淳紀は主審をべた褒めした。
すると主審は「そうだろ、なにしろこの道30年だからな」と得意気に言った。
次に清志朗の投げた球は、明らかにボール一個分外れていた。
しかし主審は迷わずに「ストライク!」と判定した。
「やっぱ凄いや。プロの目ってやっぱり違う!」
「そうだろ。俺の目はなかなかごまかせないんだぞ」
主審は、自分を褒めてくれる淳紀の事が、可愛くてしょうがなくなってしまった。
そして港南学院は一回表のピンチをなんとか乗り切った。
「司君て、すごいね」仁科先生がそう言うと、司は「先生違うよ。これは淳紀君がもって生まれた才能だよ」と言って笑った。
その後も主審の「ストライク!」の判定に、淳紀は「さすが!ナイスジャッジ!」という声が響いた。
さすがの古屋監督もこれには苦笑いだった。
その後も淳紀はどんどん主審と仲良くなって行き、主審の家が平塚で趣味がゴルフである事がわかり、そして孫が二人いる事まで突き止めた。
そしてプレーをしながら、主審と終始孫の話をしたり、趣味の話をした。
6回裏、真の3ランホームランが飛び出した。
これで3―0で港南学院のリードとなった。
そして7回表、雨足が強くなりだしたので、主審は一時中断を告げた。
すると淳紀はニッコリと笑って「天気予報では、この後ずっと雨だそうです。それにもうすぐ『クレヨンしんちゃん』の再放送の時間ですよ。お孫さん待っていませんか?」と言った。
孫・・・。
これはお爺ちゃんにとって殺し文句である。
そして主審は雨天コールドを告げた。
こうして港南学院は、決勝進出を果たした。
まさしく淳紀のファインプレーであった。
このプレーは、一見汚いように見えるが、別にルールを破っているわけではない。
所詮審判も人間である。
人間であれば好き嫌いがあって当然なのだ。