フォーエバー・フレンズ -252ページ目

12、奇襲攻撃(2)

今日の清志朗は、いつもより闘志を燃やしていた。

清志朗の性格は、大舞台になればなるほど燃えあがる男である。

そして今、その爆発する気持ちを抑えるように、静かにマウンド上で投球練習をしていた。

投球練習を終えると、主審が「プレイ!」と叫んだ。

すると清志朗はゆっくりと振りかぶった。

そして「おらあ!」という掛け声をあげて、速球を投げ込んできた。

あまりにもの気迫に、バッターは手が出なかった。

「ストライク!」

「よし」清志朗は小さくうなずきながら、物凄い形相で打者を睨み付けた。

そして第二球「おりゃ!」という声をあげた。

それはテレビを見ている恵にも聞える程の声だった。

「清志朗君凄い・・・」恵はあまりにもの清志朗の気迫に、唖然とした。

そして先頭打者を三振にしとめると「よっしゃあ!」と言い、マウンド上で小躍りした。

湘陽大付属の先頭打者が、ベンチへと帰ってきた。

そして沢尻がその打者に「どうだった?」と聞くと、その選手は「あいつスレスレに投げ込んでくるんだよ。それとスライダーとシュートの軌道が同じに見えたよ」と言った。

「そうか・・・やっぱり手ごわいな・・・」沢尻はじっと清志朗を見つめた。

清志朗の鬼の形相の後ろには、まるで炎が燃えたぎっているようだった。

次の打者、清志朗は初球からビーンボールを投げた。

「うわ!」っと言って打者はのけぞりながら、その場で転倒した。

しかし清志朗は、その打者を恐ろしい目つきで睨み付けた。

完全に圧倒されていた。

その打者を三振にしとめると、次の打者は沢尻がバッターボックスに入った。

清志朗は「沢尻、この打席はかんべんしてやるよ」とポツリと言って、大きく振りかぶった。

そして清志朗が「おらあ!」と叫びながら投げた初球は、ど真ん中へと行った。

「しめた!」沢尻は咄嗟に反応し、バットを振った。

すると鈍い金属音がなり、大きなキャッチャーフライとなった。

沢尻はしびれる両手を見つめながら唖然とした。

シュートボールだった。

沢尻に、シュートボールの軌道が見えなかったのだ。

木製バットなら、完全にバットをへし折っていただろう。

三者凡退。

清志朗は大きなガッツポーズをしながら、走ってマウンドを去っていった。

港南学院応援席は、物凄い盛り上がりを見せた。

「いいぞ!清志朗!」という声援が起こり、指笛がピー!ピー!と鳴り響いた。

古屋監督はそんな清志朗を見て、思わずニンマリした。

「大谷君、凄い気迫ですねえ」

そんな仁科先生の問いかけに、古屋監督は「実はね、あいつはああやってる時が一番冷静なんだよ」と言った。

「そうなんですか?」

「あの手のタイプは、冷静じゃない時は、気持ちが沈むんだよ」

古屋監督はそう言いながら笑った。

1回裏、港南学院の攻撃。

先頭打者は文麿。

しかし沢尻の投球練習を見ると、港南学院の応援席は黙り込んだ。

沢尻の投げた球は物凄いスピードだった。

「ズバン!」という大きなミットの音がなると、電光掲示板には154km/hという数字が表示されていた。

あたりから「おお・・・」というどよめきが起こった。

文麿は黙って沢尻の投球を見つめ続けた。

そして投球練習が終わると、文麿はゆっくりとバッターボックスへと入った。

そしてバットを構えると、沢尻をじっと見た。

沢尻はゆっくりと振りかぶり、そして右足をスッと上げた。

「チャー」

左手を大きくゆったりと後ろへと回した。

「シュー」

そしてビュッっという音とともに、左手からボールが放たれた。

「メン」

文麿は思いっきり振りぬいた。

カキーン。

文麿は沢尻の152キロのボールをはじき返した。

そして、打った球はセカンドの上を通過し、右中間へと飛んでいった。

いきなり2ベースヒットを放ったのだ。

沢尻は愕然とした。

続く打者は修二。

修二も同じくチャー・シュー・メン打法で、ライト前ヒットを放った。

いきなり連打を浴びた沢尻は、信じられない気持ちでマウンド上にたたずんだ。

そして3番の陽一の打順が回ってきた。

「ファック!」沢尻はそう叫びながら、ボールを投げた。

陽一は沢尻のボールをじっと見た。

「ストライク!」

主審がそう言うと、陽一はしばらく空を見た。

確かに速い・・・。

それに角度もあるし、横から食い込んでくる感じもする。

でも、これは俺の好きな球筋だ。

タイミングさえ合えばなんとかなるかも。

そう思うと、陽一は再びバットを構えた。

そして沢尻が投げた第二球目の剛速球に、陽一の体は素早く反応した。

陽一がバットを振りぬくと、カキーンという音とともに、打球はレフトスタンドの最上段へと飛んでいった。

その瞬間横浜スタジアムには、大歓声が轟いた。

港南学院の応援席では、いきなり飛び出した陽一のホームランに、大きく沸いていた。

由香子と弥生も手を取り合って「キャー!やった!」と言って喜んでいた。

生徒達も陽一を「さすが徳永!」「やっぱり徳永は違うよな」と言って大絶賛した。

そして今大会7号目のスリーランホームランを放った陽一は、淡々とした表情でダイヤモンドをゆっくりと回っていった。

それとは相反して、沢尻は呆然としながらレフトスタンドを見つめ続けた。

こうして沢尻の無失点記録は、陽一の手で破られたのだ。

横浜スタジアムの電光掲示板には3の数字が表示された。