12、奇襲攻撃(4)
横浜スタジアムのアナウンスが鳴った。
「港南学院高校、ピッチャー交代のお知らせを致します。ピッチャー大谷君に替わりまして、庄野君。ピッチャー庄野君」
そのアナウンスを聞いた観客からは「なんだなんだ」とどよめきが起こった。
しぶしぶベンチへと戻った清志朗は、グラブを床に叩きつけると、古屋監督に食ってかかった。
「監督!投げれるつってんだろ!なんで交替なんだよ!」
「まあ、横に座れ」
「俺、帰るよ」
「無理するな。この後も試合があるんだから」と古屋監督は何か自信のある言い方をした。
古屋監督にそう言われると清志朗はふてくされながら、ベンチにドカッと座った。
港南学院高校の投手陣は、清志朗こそ絶品だったが選手層が薄かった。
二番手の投手は、湘陽大付属に打ち込まれさらに一点を取られた。
これで3―2で、一点差となった。
湘陽大付属はじわりじわりと港南学院に追いついてきたのだ。
そして7回裏の攻撃、予定通り修二がセフティーバントを行った。
投げた後、大きく体が右へと流れる沢尻は、このセフティーバントに対応が出来なかった。
そして続く陽一も、セフティーバントをした。
陽一はバントが得意ではなかったが、修二を送ればいいと思って、セフティー気味のバントを試みたのだ。
俊足の陽一は、なんとかセーフになり、ノーアウトでランナー1、2塁となった。
そしてここでバッターは真。
真は、沢尻にいま一つタイミングが合わなかったが、こういったケースでは最低限の仕事をするタイプで、見事ライト奥深くにフライを打ち上げたのだ。
結果修二は、タッチアップで2塁から3塁へと進塁した。
そして古屋監督は、次の打者の俊介にスクイズのサインを送った。
そのスクイズは見事に成功し、修二はホームへと帰ってきた。
これで4―2となり、湘陽大付属を2点差に引き離した。
ベンチが喜ぶ中、古屋監督の表情は真剣そのものだった。
そして「もう一山くる・・・」とポツリと言った。
8回表に、2番手の庄野は1点を失った。
そして9回表、1アウト満塁のピンチ。
あと一人で甲子園の切符をつかめるが、どうしても楽に勝たせてくれない。
そして、バッターは沢尻。
沢尻は庄野の投げた4球目をジャストミートし、ボールは二遊間をぬけてセンター前へと転がった。
3塁ランナーは、楽々ホームインし、更に2塁ランナーまでもが3塁を回った。
このランナーをホームに帰すと、逆転となる。
絶体絶命のピンチだった。
センターの陽一は懸命に走って前進し、ボールをキャッチすると思いっきりバックホームをした。
キーンと陽一の放ったレーザービームに、観客席からどよめきが起った。
そしてその球は淳紀のグラブにバシッと納まり、走ってきたランナーはタッチアウトとなった。
「バッターアウト!」主審の声に、港南学院応援席の生徒は、安堵の表情を浮かべた。
「たすかった・・・」由香子は安心して、ガクッと体の力を一気に緩めた。
「同点かあ・・・」陽一は空を見上げながら、うなだれた。
しかも2アウト、ランナーは1塁2塁のピンチ・・・。
古屋監督は頭をかきながら「だめだなあ・・・投手層が薄すぎる・・・」と呟いて、遂に決心をした。
「司、ピッチャー交替」古屋監督は少しヤケ気味だった。
「誰に交替ですか?」
「陽一」
「えっ?」司は目を疑った。
だが古屋監督は「ピッチャー陽一と言ってるんだ」と言った。
「徳永君に抑えれますか?球筋が素直ですけど」
「あいつのほうがまだマシだ。少なくともこんな大舞台には慣れている」
「わ・・・わかりました」
恵は心配そうな表情でテレビを見ていると、陽一がセンターからマウンドへ走ってくるのに気がついた。
「どうしたんだろ?」
すると横浜スタジアムのアナウンスが鳴り出した。
「港南学院のピッチャー、庄野君に替わりまして徳永君」
「ええ!陽一がピッチャー!」恵は目を大きく見開いて、驚いた。