13、旧友(1)
陽一と恵は、今日も一緒にいた。
本当に仲の良いカップルだ。
明日陽一は、甲子園へと旅立つので、二人はしばらく会えなくなる。
なので今日は、二人して横浜で陽一の大好きな映画を見ていた。
そして横浜のそごうの中を二人で手をつなぎながら歩いていると、たまたま書店の前を通りかかった。
そこには一冊の野球雑誌が置いてあった。
陽一はその雑誌の表紙を見て「あっ、堀場だ」と言うと、表紙の男性を恵に見せた。
『今大会注目のショートストップ 仙台学園 堀場康平』
「誰この人?」
「仙台学園の堀場だよ。俺の友達なんだ」陽一は自慢げに言いながら笑った。
「あっ!春の高校野球に出ていた人だよね」
「そう、俺こいつと寮で同じ部屋だったんだよ」
「そうなんだ。凄いじゃん。やっぱり昔から凄かったの?」
「いや、俺がレギュラーでこいつは控えだったんだ」
「えっ!そうなの」
「この2年間努力したんだろうなあ。会ってみたいよ」
陽一はそう言うと、さらに雑誌をめくった。
「あっ!若狭も載ってる。前原もだ!」陽一は懐かしい気持ちに浸っていた。
堀場康平は、仙台学園の主将で、今大会陽一と並ぶ注目選手である。
ポジションはショートで、打順は3番。
プロも注目している、バリバリのスラッガーである。
そして陽一の仙台学園時代の親友である。
若狭悠作。仙台学園のエースで、これも陽一と同級生。
140キロ台のストレートと、フォークボールを得意とする選抜大会を制した不動のエースである。
そして前原大治。仙台学園のファースト。
前原は、左打ちの長距離砲であり、高校通算45本の本塁打を放っている。
この主力選手達を抱える仙台学園は、今年の夏の甲子園大会に優勝候補筆頭である。
新聞社予想の優勝候補筆頭は仙台学園、その次に港南学院、そして淀商高校の順であった。
今年はレベルが相当高く、プロのスカウト達もかなり高校生達に期待をしていた。
恵は陽一からその雑誌を取り上げると、パラパラとめくりながら、あるページを陽一に見せた。
『今大会ナンバーワンスラッガー 徳永陽一』
「ほら、陽一も載ってるじゃん」恵はそう言うと、ニコリと笑った。
仁科先生は甲子園に行く準備をしていたが、今年は去年と違い至って楽だった。
宿舎の予約は、去年泊まった旅館から「今年も空けてますよ」と言って電話がかかってきたし、校舎に立てる道しるべの札も去年のを使えた。
バスの予約も、事前にバス会社から営業が来てくれたので、楽だった。
今年の応援バスはなんと50台!
「よし!準備完了!後は行くのみ!」仁科先生は小さくガッツポーズをした。
いよいよ夏の宴が始まろうとしていた。
恵はそれから陽一の家へと行った。
そして晩御飯を食べ終えると、陽一は恵と一緒に黙々と明日の出発の準備をしだした。
荷物が多いのを嫌う陽一は、本当に最低限の支度しかしなかった。
「Gパン一本だけだと不安じゃないの?」
「なんとかなるよ」
「Tシャツも3着だけ???」
「現地に洗濯機があるよ」
「長袖も一枚持っていったら?寒かったらどうするの?」
「いらない」
「スウェットは?」
「いらない」
「パンツも3枚だけ???」
「洗濯機で洗うよ」
「雨が降って乾かなかったらどうするの?」
「2日同じの履いたって死ぬわけじゃないよ」
この発言は、潔癖症の恵にはどうしても許せなかった。
そしてムッとした顔で、陽一のタンスからトランクスのパンツをごっそり取り出すと、無理矢理バックの中に詰め込んだ。
「あっ!恵やめろ!」
「うるさい!」
恵は相変わらずの陽一の変人ぶりに呆れ果ててしまった。
すると陽一は思い出したように「そうだ、リストバンドもって行かないと」と言って、恵からもらった『8のリストバンド』をカバンの中に入れた。
普段は付けない、陽一の勝負リストバンドであった。
そして恵の写真もカバンの中に入れた。