フォーエバー・フレンズ -247ページ目

13、旧友(2)

そしてその日、恵は陽一の家に泊まった。

その日は8階の部屋の中に吹き込む夜の風が、とても気持ちよかった。

二人は一つの布団で寝ながら、夜更けすぎまで喋っていた。

「陽一、楽しんできてね。勝つ事だけが全てじゃないよ」

「ああ、そうだな・・・」

「負けても、胸張って帰ってきて。陽一を悪く言う奴がいたら、私がやっつけてあげる」

「あはは。大丈夫だよ。悪く言われるのは慣れてるよ」

「いつも元気な顔でいてね」

恵は陽一の顔をそっと撫でた。

陽一はしばらく黙っていた。

そして恵をそっと抱きしめると「恵、ごめんな」と突然言い出した。

「どうしたの?」

「俺、情けないだろ?弱音ばかり吐いてさ・・・」

「陽一・・・」

「俺、本当はダメな奴なんだよ」

「そんな事ないよ。私は陽一から沢山の力をもらって生きている」

「俺も恵から沢山の力をもらっているよ。恵がいるから、俺は甲子園に行けるようになれた」

「陽一、これからもずっと一緒にいようね」

「ああ」

そしていつの間にか二人は眠りについていった。


次の日、陽一は出発の時間を迎えた。

そして二人は、陽一の家の前にあるエレベーターのところにいた。

「駅まで一緒に行くよ」と恵が言うと、陽一は「ここでいい」と言った。

しばらくするとエレベーターがやってきた。

陽一はエレベーターに乗り込むと「じゃあ、行ってくるよ」と言った。

「うん、頑張ってきてね」

そしてエレベーターの閉まる間際に、陽一はウインクをしながら、拳を突き出し去っていった・・・。

「かっこいい・・・私の陽一・・・」恵はポワ~ンとラブラブモードに入ってしまった。

すると再びエレベーターの扉が開いた。

「ごめん、バット忘れてたよ」陽一はそう言って、笑いながら戻ってきた。

「何しに行くつもりだったの・・・」

恵のラブラブモードーはわずか3秒で終わってしまった。




新横浜駅で合流した、港南学院選手団は、『のぞみ新大阪行き』にのりこんだ。

そして陽一の横には、今年も真が座っていたのだ。

「また真の隣かよ」

「また陽一かよ。お前暑っ苦しいんだよ」

「お前もだよ!」

おおきな二人は、今年も密着するように座っていた。

真はお茶を飲みながら、窓から見える浜名湖を見つめていた。

そして真は思い立ったように「陽一、この大会が終わったら、俺学校辞めるよ」と言い出した。

「何でだよ。あと少しで卒業だろ?」

「春まで学校にいたんじゃ子供を育てられねえ。秋から近所の工場で働く」

陽一はそんな真の言葉を聞くと、しばらく黙って考え込んだ。

そして「真、それ11月まで待てないのか?」と言った。

「なんで11月なんだよ」

「ドラフト会議があるだろ」

「だからどうした?」

「お前、ひょっとして指名がかかるんじゃないかな?」

「んなわけないだろ。陽一ならわかるけどさ、俺は無理だよ」

「俺がスカウトなら、俺より真を指名するけどなあ・・・」

「お世辞はやめてくれ」


真は、プロ野球からのラブコールはいまだに無かった。

連日港南学院に、プロ野球関係者がやってくるが、一番のお目当てはやはり陽一で、その次のお目当てはなんと2年生の修二だったのだ。

修二は今や高校球界ナンバーワンの守備力と評価されていて、来年のドラフト候補に上がっていたのだ。

しかし真には全く声がかからなかった。

真の打球は陽一に比べて高く上がる為、スカウトマンの目からは飛距離不足に見えた。

評価としては「遠山は金属バットだから、ホームランが出る」というものだった。

だが陽一の真に対する評価は、それとは全く違っていた。


「俺より真の方が、バッティングセンスがあると思うんだよ」

「んなわけないだろ」

「いや、俺の場合は変化球の対応が下手なんだが、その点真は上手いからさ。きっとプロでも通用すると思うんだ。俺がここまで打てるのは、変化球の少ない高校野球だからだと思う」

「どうだか・・・」

「まあ、この大会の結果次第で、プロのスカウトも新学期には答えを出してくると思うよ。ちょっとぐらい期待してみろよ」

真は少し渋い表情をした。


その日の夕方、港南学院選手団は宿舎に到着した。