フォーエバー・フレンズ -246ページ目

13、旧友(3)

港南学院の宿舎は、兵庫県西宮市にある『浜風旅館』という。

真の進路の件が少し気になって、陽一は真を付近の散策に誘った。

そして二人は夕暮れ時、旅館の近くの公園で話し込んでいた。

「俺、ここまでやれただけでもう満足なんだよ。所詮俺なんてあのまま行ってたら、いずれは退学になってたと思うんだよ」

陽一は、真の話を黙って聞いていた。

「それがさ、子供の頃に夢見た甲子園にまで行けたんだぞ。しかも2回もだぞ。もうこれ以上の事は望まねえよ」

「でもさ、プロに入れたら子育てだってちゃんと出来るだろ?」

「誰もプロ入り拒否なんてしてねえよ。ドラフトなんてかからねえって言ってるんだよ」

陽一はしばらく黙りこんだ。

そして「かかるよ」と断言した。

「かかんねえよ」

「かかる。俺が選手見る目を間違えた事があるか?」

「・・・ねえよ」

「真がドラフトにかからないのなら、日本のプロ野球は終わりだよ」

すると、二人のような大きな男が、遠くから走ってやってきた。

「おーい!徳永!遠山!」

なんと昨年淀商高校にいた、大河内だった。

「大河内さん・・・」陽一は突然の来客に驚いた。

大河内は、今年から広島カープでプレーをしている、立派なプロ野球選手である。

その大河内は、二人に歩み寄ると「久し振りやのう。宿舎に行ったら、ここにおるって聞いてな」と言って笑った。

陽一も笑顔で「大河内さんも元気そうで」と言った。

そして3人で話し込んだ。

「俺なあ、今年も甲子園出てお前らと勝負したかったんや。せめて後一年遅く生まれてたらなあ・・・」

「今年の淀商はどうですか?」

「う~ん・・・あかんなあ・・・。あと少しが足らん。俺らぐらいのレベルになったら、力の差なんて、本当に小さいもんなんや。勝つっていう事は、相手より少しだけ前に出るだけなんや。それが今年の淀商には無いんやな。まあ、優勝は仙台学園かお前ら港南のどっちかやろ・・・」

すると今まで黙っていた真が突然話し出した。

「あの・・・大河内さん」

「なんや」

「俺さあ、プロでも通用するかな?」

真の質問に、大河内はしばらく考えると「通用すると思う」と言った。

そして「おもろいバッターになるんとちゃうかな」と言って笑った。

「おもろいバッター???」

「うん、お前のええところは、キャッチャーの俺にはよくわかるんや。懐せめたら、手を折りたたんで、右に打ったりしてなあ。神業やで。でもな、そんな渋い打者はスカウトにはいま一つウケが悪いんや」

「何でだよ」

「スカウトマンも結構ええ加減なんや。徳永のような、素人でも上手いとわかる奴か、足も肩も守備もまあまあの欠点の無い選手を指名しおるんや。失敗して上司に怒られるのが恐いねん。だからお前のような技で遠くに飛ばす奴を、なかなか指名できへん」

「そうかあ・・・」

「でもなあ、中にはええスカウトもおるしな。ひょっとしてお前を見抜いてくれるかもしらんぞ」大河内はそう言いながら、笑った。



その後陽一と真は宿舎へと帰った。

するともう一人の客が、陽一を待っていた。

仙台学園の主将、堀場康平であった。

「徳永、久し振りだな」

「堀場!」

久し振りに再会を果たした二人は、旅館の中庭へと移動すると、ベンチに腰掛けながら話した。

「本当ひさしぶりだな」

「徳永、心配してたんだぞ。お前何も言わないで辞めたからな」

「悪かった。なんかあの時は最後の挨拶をするのもおっくうで・・・本当に悪かった」

そう言って謝る陽一を見ると、堀場はクスッと笑った。

「なんだよ」

「以前のお前なら、俺に謝ったりしなかっただろ?お前変わったよな」

「変わったかあ?」

「ああ変わったよ、実はさあ一番そう思ったのが、去年テレビで決勝戦見てたんだけどな、お前最後アウトになって泣いていたランナーを抱き起こして、ベンチに連れて帰っただろ?」

「修二の事か?」

「以前のお前なら、そんな奴ほったらかしにしてたと思うんだよ。でもそのシーン見たとき、こいつ優しくなったなと思ったよ。まず仙台学園にいた時のお前じゃありえない」

「そうかなあ?」

「だからお前はキャプテンなんて絶対に出来ないと思っていた。でも・・・仙台学園には無い何かを、港南で手に入れたのかなって。それでお前変わったのかなって」

「う~ん・・・そうかもな。なにしろ3人の野球同好会からのスタートだったからな」

「お前にとって貴重な体験だよ。今までトップクラスでしかやった事の無いお前が、ゼロからスタートしたんだからさ」

「そうだな・・・あっ、そうだ堀場!俺の彼女の写真見るか?」

「えっ?お前に彼女?」

陽一は急いで自分の部屋から、恵の写真を持ってきて、堀場に見せた。

「へえ・・・優しそうな子だな」

「恵って言うんだ」

「お前に彼女ねえ。きっとこの子苦労してるんだろうなあ」そう言うと、堀場は大笑いしだした。

「うるさい!笑うな!」

「あははは」



そして陽一は、堀場を近くの駅まで送って行った。

駅まで、一緒に歩いていると、堀場は突然「なあ徳永、お前、運命って奴を信じるか?」と聞いてきた。

「運命?何の事だよ」

「つまり、人には運命って言うのがあってさ、人はそれに従って生きているって事」

「宗教ならお断りだ」

「いや、お前はきっと何かをする為に、生まれてきたと思うんだよ。高一までトップクラスの野球環境で英才教育、そして両親と死別、野球を挫折して鎌倉に帰り、たった3人の野球部に入部、そしていろんな仲間が集結、名門野球部復活、甲子園準優勝、キャプテンに就任、部員の不祥事で選抜辞退、そして再び甲子園・・・普通じゃ考えられないよ」

「・・・確かにそうだな」

「お前にはきっと何かがあるよ」

堀場は最後にそう言って、阪神電車に乗って宿舎へと帰って行った。

陽一は帰り道、堀場の言った言葉の意味をずっと考えていた。

確かに、今まで不思議な事ばかり起こってきた。

人間は、何かをする為に生まれてくる。

この時堀場の言った、『生まれてくる意味』と言うものを、陽一が本当に理解するのは、何年か先の事であった。