14、みんなの甲子園(1)
高校野球、準決勝第一試合。
夏空の下の甲子園球場では、仙台学園と昨年の優勝校である淀商高校の死闘が繰り広げられていた。
選抜大会決勝で、仙台学園に集中打を浴びて敗れた篠宮は、恐ろしい程の気迫を見せ、ひたすら三振の山を築いていた。
篠宮は、6回裏まで無失点の好投を見せていた。
仙台学園のエース若狭も力投を見せ、篠宮と同じく6回表まで無失点。
まさに0―0の緊迫した試合展開である。
スタンドで見ていた陽一と司は、試合の行方を固唾を呑んで見守っていた。
「篠宮君、すごいね」司は気合の入った篠宮のピッチングを見て、驚いていた。
「ああ、選抜でボコボコに打たれたのが、よほど悔しかったんだろう」
「どっちが勝つかなあ?」
陽一は、考え込んだ。
「う~ん・・・これだけはわからない・・・」
7回表、遂に均衡が破れた
なんと淀商が、仙台学園のエース若狭に連続安打を浴びせ、遂に一点を先制したのである。
3塁側アルプススタンドの淀商応援団から、歓喜の声が聞こえた。
そして、7回裏も篠宮は無失点で乗り切り、あと2イニング抑えれば、2年連続の決勝進出が決まる。
しかし8回裏、3番の堀場のバットが火を噴いたのだ。
篠宮の投げた145キロの剛速球を、センターバックスクリーンへとはじき返したのだ。
そして続く4番の前原も、ライトスタンドへ特大の本塁打を放った。
甲子園の観客達は、この恐ろしい飛距離にシーンとなってしまった。
この日スタンドには、一人の男性がやってきていた。
その男の名は、『若林忠彦』と言い、ここ甲子園球場を本拠地に構える、阪神タイガースのスカウト部長である。
若林は、数名の部下を引き連れて、この試合を見ていた。
「部長、前原はどうですか?」
「う~ん・・・徳永の方がええなあ」若林部長は関西弁でそう答えると、さらに「飛距離は徳永と互角やろうけど、器用さがなあ・・・足と守備を考えれば、総合力では徳永の方が完全に上やな」
「堀場は?」
「う~ん・・・ウチのチームはショートには困ってないからなあ・・・まあ、堀場はプロに入っても、3割は打てんと思うな」
若林部長のコメントはかなりの辛口であった。
阪神タイガースは、陽一を一位で指名する事を決めていて、若林部長は今日その最終確認の為にやってきたのだ。
陽一のプレーを生で見るのが初めてだった。
結局試合は仙台学園が勝利した。
篠宮は何も言わずに、ベンチで肩を落としていた。
試合を見届けた陽一は「司、行こうか」と言って席を立った。
「うん」
そして二人は通路を歩いて行った。
「徳永君、若狭君の投球フォームのクセが読めないよ。去年の篠宮君と同じだ」
司は少しうなだれ気味に、そう言った。
「だろうな」
「ただ、堀場君と前原君の弱点はなんとなくわかったよ」
「投手戦になるだろうな。清志朗が何処まで抑えられるかがキーだ」
「そうだね」
「でも、それも今日勝っての話だ。山陽明星も簡単には勝たせてくれないよ」
そう言って二人は、選手控え室の方へと消えていった。
準決勝第二試合。
港南学院VS山陽明星。
港南学院は先攻となった。
ウ~というサイレンの音とともに、両校の選手達は一斉に飛び出してきた。
そしてホーム上に集まると、一斉に礼をした。
いよいよ試合開始だ。
恵は、今日も陽一の部屋でテレビを見ながら、この試合の行方を見守った。
そしてテレビの前の、ソファーセットのテーブルには、陽一の両親の写真。
「陽一、淳紀、頑張ってね」
由香子と弥生は、マネージャーとして応援席にいた。
この二人は男ばかりの宿舎には泊まらず、連日応援バスに乗って、この会場へ駆けつけてきた。
何はともあれ、二人にとって過酷な夏である。
そして茜は今日もコロンブスで、一人黙々と働いていた。
お腹も目立つようになり店長は心配そうだったが、茜は平気な顔で働いていた。
そしてお客様が来店すると、とても素敵な笑顔で「いらっしゃいませ」と言った。
真の試合を見る事も無く、とにかく生まれてくる子供の為に、一生懸命働いていた。
そして遂に店長はしびれを切らし、茜を事務所へと呼びつけた。
「茜ちゃん、なんで甲子園にいかないの」
「だって、子供が生まれてくるし、働いて少しでもお金を稼がないと」
「違うよ、生まれてくる子供の為に甲子園に行くんだよ」
「どうして?」
「お腹の中の子供に、お父さんが甲子園で活躍する姿をみせてあげろよ」
そして店長はさらに言った。
「一日働いても、7千円だよ。そんな金俺がくれてやる。7千円稼ぐために、お父さんの一生に一度の晴れ舞台を見させないでいいのか?」
茜は黙り込んだ。
「もし、今日港南が勝って決勝に進んだら、茜ちゃん、去年と同じように甲子園に行け」