14、みんなの甲子園(3)
試合後、仁科先生と陽一は、淳紀を西宮の病院へと連れて行った。
左脇腹のあばら骨に、ヒビが入っていた。
そしてその日の夕方、港南学院野球部は宿舎の大広間でミーティングをしていた。
淳紀がいない為に、古屋監督は急遽俊介にマスクを被ってもらおうかと思っていた。
しかし淳紀は「お願いです。試合に出させてください」と言って譲らなかった。
古屋監督は何も言わなかった。
すると陽一が「あの・・・監督、ここまで言ってるんだから、出してあげたらどうですか?」と言った。
古屋監督は「それは、俺が決める事じゃない。俺は野球の指揮をとるだけだ。生徒の安全に関わることは部長の仁科先生が決める事だ」と言った。
「先生、淳紀を出してやって欲しい」陽一がそうお願いすると、仁科先生はきっぱり「ダメ」と言った。
「そこをなんとか」
「徳永君ダメ。私は大切なお子様をお預かりしてるの。何かあったらどうするの」
仁科先生は、文麿と由香子の件以来、安全には相当うるさくなっていた。
仁科先生の大人としての責任であった。
だが、淳紀は「先生お願い。お願いします」と言って譲らない。
仁科先生はしばらく考えると「わかった・・・但し、保護者の方の許可が必要。未成年の淳紀君や徳永君とは約束はできない」と言った。
そしてその日の晩、陽一は恵の父と電話で話した。
淳紀の試合出場の許可をもらう為だった。
陽一から一連の事情を聞いた恵の父は「わかった。淳紀に言っといてくれ。生きて帰って来いって」と言った。
「ありがとうございます」
「但し、それでチームに迷惑をかけるようだったら、下げてくれ。みんなに迷惑をかけるのは駄目だ」
「わかりました・・・。それと最後にお願いがあります」
「なんだよ」
「明後日の決勝戦、みんなで応援に来てくれませんか?淳紀の為に、みんなで甲子園に応援にきてくれませんか?」
恵の父はしばらく考えると「わかった。徳永君のお願いなら、そうする」と言った。
そして電話を切った。
居間には、恵と母親がいた。
「お父さんどうなの?」母親は恐る恐る、恵の父に聞いた。
「あばら骨にヒビは入ってるそうだ」
「ええっ!」母親と恵は驚いて、思わず一緒になって声を上げた。
「でも淳紀は試合には出ると言ってる」
恵と母親は黙り込んだ。
「大丈夫だ。あばら骨一本ぐらい消えたって生きていけるよ。淳紀も男として一旗あげたいんだよ」恵の父はそう言うと笑った。
そして「みんな、明後日の決勝戦応援に行くぞ。徳永君が応援に来て欲しいと言ってるからな」と言った。
「お父さん・・・」
「みんなで淳紀や徳永君の、晴れ舞台を見に行こう」
次の日の晩、恵の家族は港南学院高校へとやってきた。
応援バスに乗ろうと考えたが、校内には物凄い人だかりが出来ていた。
すると校長先生が校門前の受付で、頭を抱えていた。
「校長先生どうしたんですか?」と恵が聞くと、どうやら応援バスの数が足らないらしい。
「いやあ、こんなにくると思わなかったんだよ。今年は去年より多めにバスを用意したのだが・・・50台で足らないなんて・・・」
「そうなんですか・・・・」
すると恵の母が「しょうがないね。明日の朝の新幹線に乗りましょう」と言った。
恵の父と、恵がガックリ肩を落としたその時、暗闇からバスの行列が現れた。
その数なんと20両!
そして校門前に、先頭のバスが止まると、清志朗の父と兄が降りてきた。
「清志朗君のお父さん!」恵は久々に見た清志朗の父の姿に驚いた。
「やあ、恵理のそっくりさん」
「こ・・・こんばんは」
清志朗の父は、恵に軽く会釈をすると、受付の校長先生の前に立って「大谷建設・・・いや、大谷家よりこの応援バス20台を提供します」と言った。
校長先生は大喜びで「大谷さん、有難うございます。これでみんなが甲子園へ行けます」と言って握手をした。
「明日は清志朗の晴れ舞台です。わが子の姿を沢山の人にみていただかないと」
そして清志朗の父が手配した20台のバスは、次々と校内のバス乗り場へと向かっていった。
そしてそのうちの一台が『野球部関係者専用バス』となり、恵達はそのバスに乗った。
その後も、部員達の両親や兄弟がやってきて、そして由香子も両親と一緒にやってきた。弥生も最後の方に、バスに乗ってきた。
そして一通り乗車が終わると、バスは発進しだした。
すると外から「待ってえ~」と言う声が聞こえた。
その声に気付いた恵がバスの外を見ると、なんと茜と理子が走ってやってきたのだ。
恵は「茜!」と叫ぶと「ちょっと待ってください!」と言ってバスを止めた。
そしてプシューという音とともにバスの自動ドアが開くと、少し息を切らした茜と理子が乗ってきた。
恵は茜の手を取って「茜!茜も来れるんだ」と言って喜んだ。
「うん、行く。お腹の子に、真の活躍するところを見せるんだ」茜はそう言いながら笑った。