フォーエバー・フレンズ -240ページ目

15、決戦(1)

決勝戦当日の宿舎、陽一は淳紀の体に思いっきり強くテーピングをしていた。

「くう!」淳紀は痛みを必死でこらえていた。

「淳紀、痛いか?」

「えへへ・・・大丈夫です」淳紀は冷や汗を流しながら、笑顔でそう言った。

テーピングを巻き終えると、陽一は淳紀の肩をしっかりとつかんで「行くぞ」と言った。

「はい」

そして二人は宿舎の玄関前に止められたバスに、乗り込んでいった。



恵は、3塁側アルプス席へとやってきた。

そして、天然芝の広い甲子園球場を見渡しながら、恵は「遂に来たんだ・・・」と言った。



港南学院吹奏楽部が音合わせをし、時折プオーというトランペットの音が球場に鳴り響いていた。

応援席の最前列に、小さな台が設けられていた。

それは、もうこの世にはなく、選手達の晴れ舞台をみる事ができない人達の写真だった。

恵は、その台の上に、陽一の両親の写真を置いた。

「お父さん、お母さん・・・ここで見ていてくださいね」恵が写真に向かってそう言うと、清志朗の父がやってきて、清志朗の姉『恵理』の写真を同じようにその台の上に置いた。

そして「死者の魂は、きっとこの世の人になんらかの道しるべをしてくれるんだろうな・・・」と言った。

「魂?」

「そう・・・恵理の魂は、どうしようもない不良の清志朗を救おうと、君と徳永君を巡り合わせたんだろう。これは運命だったのかもしれない。君はどう思う?こんな事を信じるか?」

恵は、陽一の母の事を思い出した。

そして甲子園のフィールドを見ながら、小さな声で「信じます・・・」と言った。



甲子園の入り口には、港南学院選手団のバスが到着していた。

カメラマンが持つカメラがパシャパシャ音を立てながら、陽一達を照らした。

陽一は決戦前の甲子園球場を見上げて、心の中で「行くぞ」と叫んだ。

そして選手達は次々と球場内へと入っていった。



港南学院に続いて、仙台学園の選手団がやってきた

主将の堀場も、陽一と同じように甲子園球場を見上げた。

堀場に続いて、仙台学園の選手団は次々と建物内へと入っていった。

おびただしい数の報道陣のフラッシュが、陽一達と同じようにパシャパシャとたかれた。

今日は、仙台学園の堀場にとっても、陽一にとっても高校最後の試合である。



港南学院のロッカールームは、緊張の為か誰も物を語らなかった。

そんな静かなロッカールームで陽一は、左手に『8のリストバンド』を昨年と同じようにゆっくりと装着した。

そしてリストバンドを付けた左手をじっと見つめた。

すると係員が入ってきて「そろそろ時間です」と言った。

その係員の声を聞くと、選手達は一斉に立ち上がり、円陣を組んだ。

陽一は「これで最後だ、みんな悔いの無いプレーをしよう」と言った。

そして「行くぞ!」の掛け声に、全員「おう!」と言った。



ロッカールームからベンチへと続く甲子園の薄暗い廊下を、港南学院の選手達が歩いていくと、それを追うように、報道陣がついていった。そして無数のカメラのフラッシュがたかれた。

そして、ベンチへとやってくると、外の眩しい光が陽一達を照らした。

そこには、甲子園の美しいフィールドがあった。



只今の気温は、36度。

バックスクリーン上の大会旗が、浜風の影響でレフトからライトへとなびいていた。

そして5万人の観客が見守る中、甲子園球場のフィールドに、港南学院ナインが各ポジションへと散っていった。

すると「ワー!」という大歓声が、こだました。

古屋監督は、バッターボックスに立って一つ一つ心を込めてノックをした。



恵は緊張の様子で、センターの陽一の姿をじっと見ていた。

何故か言葉が出なかった。

すると隣にいた茜が、早速甲子園名物の『かちわり氷』を買った。

「何それ?」

「甲子園名物かちわり氷」

茜はそう言うと、その『かちわり氷』を恵の頬にチョンと付けた。

「つめた!」

「リラックス、リラックス」

アルプス席の下の方では、由香子が報道陣からインタビューを受けていた。

そう、美人マネージャーへの試合前インタビューだった。

由香子はこの為に、バスの中で化粧をしっかりと施していたのだ。

「う~ん・・・そうですねえ。全力で頑張ってほしいですう」

最後の最後まで、相変わらずのブリッコインタビューだった。



守備練習を終えた港南学院ナインが、ベンチに引き上げると、今度は仙台学園ナインが守備練習を始めた。

ショートのポジションの陽一の友人堀場は、軽快な守備を見せた。

キャッチしてから、スローイングまでの時間は恐ろしい程速く、まるでグラブから直接ボールが飛び出すようだった。

それを見ていた陽一は「あいつ・・・努力したんだなあ・・・」とつぶやいた。

陽一の控えだった堀場は、陽一が仙台学園を去ってからの2年間、恐ろしい程の練習をこなし、遂には高校野球界屈指のショートとまで言われるようになっていたのだ。


甲子園の夏空 - 写真素材
(c) みやさこ写真素材 PIXTA