15、決戦(2)
時刻は午後1時となった。
遂に試合開始である。
ウ~というサイレンの音がなると、両ベンチから一斉に選手が飛び出してきた。
そして全員礼をすると、仙台学園ナインが各ポジションへと散っていった。
港南学院は先攻である。
文麿が2、3回素振りをすると、ゆっくりとバッターボックスへと入った。
仙台学園のエース若狭は、ゆっくりと振りかぶり、初球を投げた。
「ストライク!」
電光掲示板には141キロと表示された。
文麿は若狭をじっと見つめて「結構速いなあ」と言った。
そして若狭の放った第二球目、大きく割れるカーブだった。
「ボール!」
若狭はゆっくりとうなずきながら、キャッチャーからの返球を受けとった。
そして第三球目は、インハイのストレートだった。
文麿は、バットを振りぬいたが、ファールとなった。
そして第四球目、若狭の投げた球はすっぽ抜け気味だった。
「もらった!」文麿がそう言ってバットを振ると、ボールは文麿の手前でススッと落ちていった。
文麿は思いっきり空振りをしてしまったのだ。
「ストライク!バッターアウト!」
若狭の得意球のフォークボールだった。
「ちきしょう!」
結局港南学院は一回表三者凡退に終わった。
1回裏、今度は仙台学園の攻撃である。
マウンド上の清志朗は、この間デッドボールを食らって退場となってしまったが、大舞台でこそ燃えるのである。
そしていつものように「おらあ!」という掛け声を出しながら、ボールを投げた。
気合の入った球は、仙台学園の打者の胸元を容赦なくえぐった。
「ストライク!」
「くう・・・」清志朗のボールを受けた淳紀は、ボールの衝撃により左脇腹に物凄い痛みを感じた。
しかし淳紀は笑顔で「ナイスピッチ!」と言って清志朗に返球した。
本当は声を出すのもつらい。
そんな淳紀を見て清志朗はいきなりタイムをかけて、淳紀をマウンドに呼んだ。
「清志朗君、なに?」
「いてえだろ」
「大丈夫だよ」
しかし淳紀の顔は真っ青で、冷や汗がタラタラと流れていた。
「無理すんなよ」
「だいじょうぶ」淳紀は笑いながら、帰ろうとした。
そして清志朗に「思いっきり投げてよ。すこしでも遠慮したら、僕は清志朗君と縁を切るよ」と言って、去って行った。
「あいつ・・・」清志朗は少し涙ぐむと、すぐさま涙を拭いて、表情を鬼の形相へと変えた。
「淳紀!いくぜえ!おらあ!」
清志朗は恐ろしい程の気合で、淳紀のミットに向けて投げ込んだ。
コーススレスレをつくスライダーとシュートを投げ分ける清志朗に、仙台学園打線は困惑した。
そして恐ろしい程の気合・・・。
なんと、清志朗は立ち上がりを、三者三振にしとめたのだ。
「よっしゃああああ!」
甲子園に清志朗の遠吠えが轟いた。
港南学院のアルプススタンドから、大歓声があがった。
「いいぞ!清志朗!」
清志朗の白熱した気合に、大いに盛り上がった。
そしてそんな清志朗の姿を、父は黙ってじっと見ていた。
その後仙台学園の若狭も、清志朗も素晴らしい好投を見せた。
両校とも5回を終えて、無得点。
5回を終えると、場内はグラウンド整備に入った。
そしてオーロラビジョンには、観客席の人達が映し出されていた。
こういうのは大体、可愛い女の子が映されるのである。
なんと由香子はこれを狙っていたのだ・・・。
そして予想通り由香子が映された!
甲子園のオーロラビジョンに映し出された由香子は、とても可愛かった。
そして由香子はカメラに向かって、ニコッと微笑んだ。
すると甲子園の観客から、「おおおお」という声が上がった。
恵は、オーロラビジョンを見て「由香子かわいい」と言って笑った。
ところが次に、自分と隣にいる茜が映し出されてしまったのだ。
「えっ・・・」
茜が「あっ、私たちが映ってるよ」と言って、喜んで手を振ると、恵は「やばい!」と言って咄嗟にタオルを頭から被って、顔を隠した。
「なんで?いいじゃん。手ふりなよ」茜はそう言って手を振ったが、恵は「いやだ」と言って、タオルでしっかりと顔を隠した。
そんな事をすると、カメラマンというものは尚更ワルノリするのである。
甲子園のオーロラビジョンにはしばらくの間、頭からタオルを被った恵の姿が映し出されていた。
その月光仮面のような姿に、場内はしばし笑いで包まれた。
「何やってんだよ・・・」ベンチにいた陽一は、呆れ顔でオーロラビジョンに映る恵の姿を見つめた。
「姉ちゃん・・・かっこ悪い・・・」淳紀は痛みをこらえながらそう言った。
コロンブスの事務所では、店長がその姿をテレビで見ていた。