フォーエバー・フレンズ -243ページ目

14、みんなの甲子園(2)

3回表、陽一の打順だった。

陽一は山陽明星の投手の球を、打ち返した。

陽一の打った球はライナー性の当たりで、左中間を真っ二つに突き破った。

そして次は真の打順である。

山陽明星の投手は、真が嫌いなインハイを徹底的に攻めてきた。

真は腕を折り畳み気味にし、ファールで粘っていた。

そして、10球目、真はコントロールミスのアウトローのストレートを逃さなかった。

カキッと軽い音が鳴ると、真の打った打球はライト方向へと高々と上がっていった。

そして浜風に乗り、そのままライトスタンドへと入っていった。

甲子園球場に、大歓声が轟いた。

「やったあ!」由香子は甲子園球場の空に向けて、両手を高々と上げた。

弥生も由香子に抱きつきながら「キャー」と叫んで喜んだ。

港南学院高校は、真の今大会3本目のツーランホーマーで、2点を先制したのだ。


それを見ていた阪神タイガースの若林部長の目つきが変わった。

そして「こいつ、ええなあ・・・」と関西弁でそうつぶやいた。

「えっ?」周りにいた部下達は少し驚いた。

「こいつ、ええぞ」

「遠山ですか?木のバットじゃ飛ばないと思いますよ」

「金属バットは、木のバットより硬いから、高い反発力が出るんや。でも遠山のバッティングは、ボールのヒッティングポイントをしっかりと叩いているから、伸びるような球筋になる。それで飛距離がでるんや。金属バットのおかげやない」

若林スカウト部長はそう言うと、再び黙って試合の行方を見守った。


7回裏、港南学院はピンチを迎えていた。

セカンドのエラーでランナーを許すと、清志朗は次の打者をフォアボールで歩かせてしまった。

清志朗の悪いクセが出てしまった。

リズムに乗ると物凄くいいが、リズムを崩されると失点を許す傾向があった。

そして、次の打者に走者一掃の3ベースを打たれてしまったのだ。

「しまった!」清志朗が打球に眼をやると、左中間奥深くへと飛んでいった。

これで2―2の同点となってしまった。

しかもノーアウト3塁。


清志朗のまわりに、内野陣と司が集まっていた。

「またやっちまった!」清志朗はマウンドの土を蹴り上げた。

「ドンマイ清志朗君」淳紀はニコリと笑った。

すると司が「とりあえず失点は覚悟しようよ。あと3イニングあるからさ」と言った。

「ああ」清志朗は少し寂しげにそう言った。

そして試合再開。

清志朗はギリギリのコースをつきながら、次の打者を三振にしとめた。

そしてその次の打者も、ビーンボールを交えながら、三振にしとめた。

「よっしゃ!」清志朗は小さくガッツポーズをし、闘志を燃やした。

そして次の打者は、クリンナップ。

清志朗は、右中間にライナー性のあたりを打たれてしまったのだ。

誰もが抜けると思った瞬間、陽一の反応は早かった。

物凄い速度で外野の芝上を駆け抜けると、そのライナー性のボールに向かって飛び込んでいった。

そして見事にジャンピングキャッチをした。

甲子園のスター陽一の、ピンチを救うファインプレーに、甲子園の観客は大歓声を上げた。

そして陽一はその観客の声援に応えるように、笑顔でベンチへと帰っていった。

7回裏の攻撃を終えて、2―2。


「さすが徳永!やはり彼で決まりですね」

そう言う部下達の声に何も反応せず、若林部長は黙って試合を見続けた。


そして9回表2アウト、港南学院の攻撃。

陽一はまた見せてくれた。

なんと初戦と同じように、特大の160mアーチを放ったのだ。

まるで甲子園の空を貫かんばかりの打球だった。

今大会5本目の本塁打に、観客達は酔いしれた。

陽一はダイヤモンドを回り終えると、次の打者真とハイタッチし、そしてベンチに帰ると全員とハイタッチをした。

これで3―2のリード。

そして次の打者真は、執拗な内角攻めに、腕を器用に折りたたみながら打った。

そして、その球はセカンドベース頭上を越える、ライト前ヒットとなった。

真は一塁ベース上で、小さくガッツポーズをした。

「茜、頑張るぞ」


若林部長は、その真の打球を見届けると「よし、わかった。もう帰ろう」と言い出した。

部下達は「やはり、徳永で・・・」と言い出すと。

「いや、俺は遠山の方がええと思っとる」と言った。

「ええ!」

「今のウチの球団が欲しいのは4番を打てるバッターや。徳永も確かにええ。しかし4番を打つタイプやない。徳永は今一つバッティングに器用さがなく、ホームランは打てたとしても、2割後半ぐらいのアベレージやろ。でも遠山は3割以上打てる打者と見た」

「しかし、スカウト会議でもう決まって・・・」

「誰が決めたんや。最終決定は10月中旬やろ」

そう言うと若林部長は、ゆっくりと立ち上がり去っていった。


陽一は子供の頃から、やっぱり4番は真だといい続けてきた。

そしてこの間も、真の方が自分よりバッティングの才能があると言っていた。

その陽一と同じように、真の才能を見抜いた一人の男が、今ここに現れたのだった。


9回裏、山陽明星の攻撃。

清志朗は山陽明星の執拗な攻撃に苦しんでいた。

1アウトで、ランナーは3塁。

またもやピンチで、清志朗の周りには内野陣が集まっていた。

「ちきしょう・・・しつこいなあ」清志朗は、暑さもあって少しバテていた。

「清志朗君、ファイト!」淳紀はこんな場面でも、ニッコリとしていた。

司はうなだれていた。

そして「とりあえず前進守備でやるしかないよ。スクイズだけには気をつけて」と言って去って行った。

そして再び試合が再開された。

「おらあ!」という掛け声を出しながら、清志朗は再び気迫を込めた投球を続けた。

そして、7球目・・・。

山陽明星の打者の打った打球は、ライトフライ。

陽一ばかり目立つが、ライトの慎太郎も陽一と同じく強肩である。

慎太郎は、助走をつけながらキャッチすると、タッチアップで3塁ランナーがホームへ向けて走り出した。

慎太郎は全力で、淳紀に向けてバックホームの返球をした。

空気抵抗の音をビューンと鳴らしながら、飛んでくる球を淳紀は真正面でしっかりと受け止めた。

走ってくるランナーは、淳紀にスライディングタックルを敢行してきた。

淳紀はランナーへタッチをすると、タックルで飛ばされてしまった。

しかし、ボールは離さなかった。

そして、主審にキャッチしたボールを見せると、土で真っ黒になった顔から白い歯がこぼれた。

「アウト!ゲームセット!」

これで港南学院は2年連続で、決勝戦へと駒を進めた。

そしてホーム上に整列をしようと、全員が各ポジションから帰ってくる最中、陽一は異変に気付いた。

淳紀が起き上がらない。

「淳紀!」陽一は咄嗟に淳紀に駆け寄った。

淳紀は左脇腹を押さえながら「いたい・・・徳永さんいたいよ・・・」とうめいた。

「すみません!担架お願いします!」

やがて淳紀は担架に運ばれて、退場して行った。


中継を見ていた恵は、自分の弟の姿を見て思わず両手で口を塞ぎ、テレビ画面を呆然と見つめた。

「淳紀・・・」


港南学院の前途に暗雲が立ち込めた。