14、みんなの甲子園(2)
3回表、陽一の打順だった。
陽一は山陽明星の投手の球を、打ち返した。
陽一の打った球はライナー性の当たりで、左中間を真っ二つに突き破った。
そして次は真の打順である。
山陽明星の投手は、真が嫌いなインハイを徹底的に攻めてきた。
真は腕を折り畳み気味にし、ファールで粘っていた。
そして、10球目、真はコントロールミスのアウトローのストレートを逃さなかった。
カキッと軽い音が鳴ると、真の打った打球はライト方向へと高々と上がっていった。
そして浜風に乗り、そのままライトスタンドへと入っていった。
甲子園球場に、大歓声が轟いた。
「やったあ!」由香子は甲子園球場の空に向けて、両手を高々と上げた。
弥生も由香子に抱きつきながら「キャー」と叫んで喜んだ。
港南学院高校は、真の今大会3本目のツーランホーマーで、2点を先制したのだ。
それを見ていた阪神タイガースの若林部長の目つきが変わった。
そして「こいつ、ええなあ・・・」と関西弁でそうつぶやいた。
「えっ?」周りにいた部下達は少し驚いた。
「こいつ、ええぞ」
「遠山ですか?木のバットじゃ飛ばないと思いますよ」
「金属バットは、木のバットより硬いから、高い反発力が出るんや。でも遠山のバッティングは、ボールのヒッティングポイントをしっかりと叩いているから、伸びるような球筋になる。それで飛距離がでるんや。金属バットのおかげやない」
若林スカウト部長はそう言うと、再び黙って試合の行方を見守った。
7回裏、港南学院はピンチを迎えていた。
セカンドのエラーでランナーを許すと、清志朗は次の打者をフォアボールで歩かせてしまった。
清志朗の悪いクセが出てしまった。
リズムに乗ると物凄くいいが、リズムを崩されると失点を許す傾向があった。
そして、次の打者に走者一掃の3ベースを打たれてしまったのだ。
「しまった!」清志朗が打球に眼をやると、左中間奥深くへと飛んでいった。
これで2―2の同点となってしまった。
しかもノーアウト3塁。
清志朗のまわりに、内野陣と司が集まっていた。
「またやっちまった!」清志朗はマウンドの土を蹴り上げた。
「ドンマイ清志朗君」淳紀はニコリと笑った。
すると司が「とりあえず失点は覚悟しようよ。あと3イニングあるからさ」と言った。
「ああ」清志朗は少し寂しげにそう言った。
そして試合再開。
清志朗はギリギリのコースをつきながら、次の打者を三振にしとめた。
そしてその次の打者も、ビーンボールを交えながら、三振にしとめた。
「よっしゃ!」清志朗は小さくガッツポーズをし、闘志を燃やした。
そして次の打者は、クリンナップ。
清志朗は、右中間にライナー性のあたりを打たれてしまったのだ。
誰もが抜けると思った瞬間、陽一の反応は早かった。
物凄い速度で外野の芝上を駆け抜けると、そのライナー性のボールに向かって飛び込んでいった。
そして見事にジャンピングキャッチをした。
甲子園のスター陽一の、ピンチを救うファインプレーに、甲子園の観客は大歓声を上げた。
そして陽一はその観客の声援に応えるように、笑顔でベンチへと帰っていった。
7回裏の攻撃を終えて、2―2。
「さすが徳永!やはり彼で決まりですね」
そう言う部下達の声に何も反応せず、若林部長は黙って試合を見続けた。
そして9回表2アウト、港南学院の攻撃。
陽一はまた見せてくれた。
なんと初戦と同じように、特大の160mアーチを放ったのだ。
まるで甲子園の空を貫かんばかりの打球だった。
今大会5本目の本塁打に、観客達は酔いしれた。
陽一はダイヤモンドを回り終えると、次の打者真とハイタッチし、そしてベンチに帰ると全員とハイタッチをした。
これで3―2のリード。
そして次の打者真は、執拗な内角攻めに、腕を器用に折りたたみながら打った。
そして、その球はセカンドベース頭上を越える、ライト前ヒットとなった。
真は一塁ベース上で、小さくガッツポーズをした。
「茜、頑張るぞ」
若林部長は、その真の打球を見届けると「よし、わかった。もう帰ろう」と言い出した。
部下達は「やはり、徳永で・・・」と言い出すと。
「いや、俺は遠山の方がええと思っとる」と言った。
「ええ!」
「今のウチの球団が欲しいのは4番を打てるバッターや。徳永も確かにええ。しかし4番を打つタイプやない。徳永は今一つバッティングに器用さがなく、ホームランは打てたとしても、2割後半ぐらいのアベレージやろ。でも遠山は3割以上打てる打者と見た」
「しかし、スカウト会議でもう決まって・・・」
「誰が決めたんや。最終決定は10月中旬やろ」
そう言うと若林部長は、ゆっくりと立ち上がり去っていった。
陽一は子供の頃から、やっぱり4番は真だといい続けてきた。
そしてこの間も、真の方が自分よりバッティングの才能があると言っていた。
その陽一と同じように、真の才能を見抜いた一人の男が、今ここに現れたのだった。
9回裏、山陽明星の攻撃。
清志朗は山陽明星の執拗な攻撃に苦しんでいた。
1アウトで、ランナーは3塁。
またもやピンチで、清志朗の周りには内野陣が集まっていた。
「ちきしょう・・・しつこいなあ」清志朗は、暑さもあって少しバテていた。
「清志朗君、ファイト!」淳紀はこんな場面でも、ニッコリとしていた。
司はうなだれていた。
そして「とりあえず前進守備でやるしかないよ。スクイズだけには気をつけて」と言って去って行った。
そして再び試合が再開された。
「おらあ!」という掛け声を出しながら、清志朗は再び気迫を込めた投球を続けた。
そして、7球目・・・。
山陽明星の打者の打った打球は、ライトフライ。
陽一ばかり目立つが、ライトの慎太郎も陽一と同じく強肩である。
慎太郎は、助走をつけながらキャッチすると、タッチアップで3塁ランナーがホームへ向けて走り出した。
慎太郎は全力で、淳紀に向けてバックホームの返球をした。
空気抵抗の音をビューンと鳴らしながら、飛んでくる球を淳紀は真正面でしっかりと受け止めた。
走ってくるランナーは、淳紀にスライディングタックルを敢行してきた。
淳紀はランナーへタッチをすると、タックルで飛ばされてしまった。
しかし、ボールは離さなかった。
そして、主審にキャッチしたボールを見せると、土で真っ黒になった顔から白い歯がこぼれた。
「アウト!ゲームセット!」
これで港南学院は2年連続で、決勝戦へと駒を進めた。
そしてホーム上に整列をしようと、全員が各ポジションから帰ってくる最中、陽一は異変に気付いた。
淳紀が起き上がらない。
「淳紀!」陽一は咄嗟に淳紀に駆け寄った。
淳紀は左脇腹を押さえながら「いたい・・・徳永さんいたいよ・・・」とうめいた。
「すみません!担架お願いします!」
やがて淳紀は担架に運ばれて、退場して行った。
中継を見ていた恵は、自分の弟の姿を見て思わず両手で口を塞ぎ、テレビ画面を呆然と見つめた。
「淳紀・・・」
港南学院の前途に暗雲が立ち込めた。