10、新たなる強敵(3)
翌日、陽一と司は、湘陽大付属の試合を見に平塚球場まで来ていた。
エースの沢尻を見るためだった。
沢尻の球は、去年の武南の小林より遥かに速く、相手チームを全く寄せ付けなかった。
『マルティネス・沢尻・海飛』というのが沢尻の本名で、アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフだった。
「確かに速いな・・・」陽一は思わず息を呑んだ。
「でしょ」
「これは高校生じゃ打てないなあ・・・ランディージョンソンみたいだ」陽一は、真剣な眼差しで沢尻を見つめていた。
沢尻は恐ろしい剛速球で、ひたすら三振の山を築いていた。
そして湘陽大付属は、2回戦を7―0のシャットアウトで勝利した。
試合が終わると、沢尻は観客席の陽一をじっと見た。そして中指を立てて「ファック!」と言った。
陽一は、そんな沢尻を見て、ニコリと笑った。
「司、間違いない。今年はこいつが一番の強敵だよ」
「うん」
「さあ、帰って攻略法を考えよう」そう言うと、陽一は観客席を後にした。
3回戦の相手は、座間の王子高校。
港南学院は、またもや打線が大爆発した。
陽一がホームラン2本を放ち、真は4打数4安打で1ホーマー。文麿も4打数3安打。
10―0の5回コールドで、港南学院は悠々4回戦に進出した。
そんな快進撃の中でも、陽一の気が晴れなかった。どうしても沢尻攻略の糸口が見つからなかったからだった。
そして野球部は、練習後のミーティングを行っていた。
時計の針は、8時になろうとしていた。
だが、ミーティングは水を打ったように、静かだった。
誰も、いい攻略法を考えられなかった。
すると清志朗が「あのさあ・・・打てないんだったら、マウンドに立たせなきゃいいんだよ」と言い出した。
「どういう事だ」陽一は、眉間にシワを寄せた。
「当ててやりゃいいんだよ」
「デッドボールと言うことか?」
「ああ、俺が沢尻の足首狙ってやるよ。足なら危険球にはならねえしな」
すると司が「そんなの卑怯だよ」と言い出した。
しかし陽一は「うん・・・それもありだな」と言い出した。
「徳永君!」
古屋監督も「それも作戦の一つだな」と言った。
「監督まで!」
そして古屋監督は「これも作戦の一つに入れる。しかし、これだけではまだ甘い。明日各自アイデアを持って来い」と言った。
こうしてミーティングは終了したが、司は渋い顔をした。
そしてその帰り、陽一と恵と司と由香子の4人で一緒に帰った。
横須賀線の電車の中で、司は血相を変えて陽一に抗議をした。
「徳永君!あの作戦は無いよ!」
「いや、それも作戦だ」
「そんなのスポーツじゃないよ!」
恵と由香子はいつもとは違う二人を見て、気まずい気持ちになり黙り込んだ。
「じゃあ司、スポーツマンシップってなんなんだ?」
「正々堂々と戦うことだよ」
「司、正々堂々戦う事だけが全てじゃない。反則スレスレで行うこともスポーツだ。アルゼンチンのサッカーを見ろよ。イエローカードスレスレのスライディングタックルをするじゃないか」
「野球はサッカーとは違う」
「基本は同じだ」
「違うよ」
陽一はしばらく黙り込んだが「司、そんなきれい事ばかり言ってたら、奴らだって何してくるかわからないぞ。ひょっとして俺に向かってデッドボール投げてくるかもしれないし」と言った。
司もしばらく黙り込んだ。
そして思い立ったように「わかったよ。でもそんな事するぐらいなら、僕は辞めるよ!」と言った。
そんな言い合いをしていると、電車は鎌倉駅へ到着した。
すると陽一は「司、ちょっとついてこい」と言った。
「ああいいよ」