フォーエバー・フレンズ -266ページ目

9、進路(2)

土曜日、陽一の家に恵と茜がいた。

陽一は野球の練習でいない為、二人は明日の料理甲子園の為の衣装を決めていた。

茜はさすがに元お嬢様だけあって、着物の着付けが出来た。

恵は陽一の母親の遺した着物を、茜に着せてもらう事となった。

そしてピンクの着物にたすきをかけて、割烹着を上に着た。

「茜、変かな?」

「全然可愛いよ。まるで料理屋の若おかみって感じ」茜はそう言って微笑んだ。

「そ・・・そうかなあ」恵は茜に褒められて、少し嬉しい気分になった。

日本人体系の恵は、とても和服が似合っていた。

「でも、陽一君のお母さんってセンスいいんだね。こんな可愛い着物」

「でしょ」

「陽一君が、この着物着ろって言ったんでしょ?陽一君もセンスいいね」

「えっ?陽一はお母さんの着物適当に使えって言っただけだよ」

「じゃあ恵が選んだんだ。恵もオシャレになったよね」

「違うよ。陽一のお母さんがこれ着てって言ったんだよ」

「へっ?」茜は血が止まったような表情で驚くと、恵は笑顔で「陽一のお母さんがこれ着なさいって言ったの」と言った。

「またまた恵。うそでしょ?」

「本当だよ」

「んなわけないじゃん。陽一君のお母さんて、亡くなったんでしょ」

「だってそこにいるもん」

恵はそう言うと、茜の背後を指差した。

「やだあ!」

そう言うと、茜は咄嗟にソファーに飛び乗り、身を縮めた

茜はお化けが大の苦手だった。

「恵、ひょっとして・・・見えるの?」

「ううん。見えないよ。でもいるのがわかるの。そしてたまに夢に出てきて、私に語りかけるの。とっても優しくて、私、陽一のお母さんの事大好きなんだ」恵はあっけらかんと笑ってそう答えた。

その話を聞くと、茜は怖がって帰ってしまった。



しばらくすると陽一が、練習から帰ってきた。

「おかえり、陽一」

「ただいま」

和服を着た恵の姿に、陽一は思わず見とれてしまった。

「恵、かわいいな。本当に和服がよく似合うよ」

「そう?ありがとう。明日の決勝はこれ着て料理作るね」

「頑張れよ」

すると恵は、陽一に拳を差し出して「陽一もこうやってくれ」と言った。

「こうか?」陽一も拳を差し出した。

「待っててくれ。必ず優勝して帰ってくる」

「それパクリだよ」

二人は大笑いした。



次の日、由香子は司に押されて、新東京テレビの社屋へとやってきた。

そして、会場案内に従い、二人は進んでいった。

会場前に着くと司は「由香ちゃん、ちょっと飲み物買ってくるよ。ここで待ってて」と言った。

「うん」と返事をすると、由香子は一人ぼっちで、あたりを見回した。

有名芸能人のポスターが沢山貼られた壁、そして時折廊下を歩くタレント・・・。

由香子にとって芸能界は憧れだった。

チャンスがあれば女優になりたいとも思っていた。

そんな由香子の好奇心は、自然とテレビ局内の散策へと向かわせた。



いいなあ・・・。

私も歩けたら、オーディション沢山受けるのに。



そんな事を考えながら、すれ違う芸能人達を羨ましそうな表情で、見つめた。

すると、トイレに行きたくなってしまった。

だが、どのトイレを探しても、障害者用のトイレが無かった。

由香子は障害者用のトイレがないと、一人で用が足せなかった。

「だめじゃん・・・」

障害者用のトイレは一階にしか無かったのだ。

そして障害者用のトイレを探しているうちに、テレビ局内で迷子になってしまった。

やがて腕も疲れてきて、車椅子を動かす力も無くなってきた。

「はあ・・・私ってダメだな・・・何も出来ない・・・」

由香子はそう呟いて肩を落とすと、自分が情けなくなってきて涙ぐんだ。

するとその時、由香子の車椅子が自然と動き出した。

「えっ!」と言って振り返ると、なんと茜が由香子の車椅子を押していた。

「スカジョ・・・」

「茜って呼んでね。トイレ行くんでしょ。ついてってあげる」

茜はそう言うと、淡々とした表情で由香子の車椅子を押し続けた。



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