16、ゴールドメダル(2)
8回表、港南学院の攻撃。
「一番、サード、一ノ瀬君」ウグイス嬢のアナウンスがなると、文麿はゆっくりとバッターボックスへと向かった。
「よし!行くぜ!」文麿はそう叫ぶと、バットを構えた。
若狭は疲れていた。
フォークボールの決め球を使えなくなった為、球数がグンと増えてしまったのだ。
そして球数はすでに120球を超えていた。
炎天下の甲子園の下若狭は、はあはあ・・・と少し肩で息をしながら、振りかぶった。
そして、140キロのストレートが、文麿の膝元の決まった。
「ストライク!」
その若狭の球を見た文麿は「球速は衰えてないが、威力を感じねえ・・・疲れてるんだな」と瞬時にそう思った。
そして文麿は、若狭の第4球目、ど真ん中に入った球を見逃さなかった。
文麿がバットを振りぬくと、ボールはセンター前へと転がって行った。
「よし!」文麿は一塁ベース上で、高々と手を上げた。
次のバッターの修二が、左打席に立つと、仙台学園は、バントシフトを敷いてきたが、修二はバスターで勝負に出た。
なんとボールはバントシフトの三遊間を抜けて行った。
これでランナーは一二塁となった。
セカンドランナー文麿、そしてファーストランナーは修二。
そして次のバッターは3番の陽一。
若狭は肩で息をしながら、陽一の姿を見つめた。
「徳永・・・」
「来い!若狭!」
陽一は若狭を真剣な眼差しで見つめた。
「徳永!行くぞ!」若狭はそう言うと、渾身の力で投げ込んできた。
「ストライク!」
ズバンと大きな音を立てて、ミットへと収まった若狭の球。
球速は144キロ。
最後の力を振り絞っての投球だった。
「もう、後の事はどうでもいい!」
若狭は必死な思いで、ボールを投げ続けた。
第二球目は、143キロのストレートでストライク。
これで2ストライクとなった。
陽一は、若狭の顔をしっかりと見つめた。
その若狭の表情は、まさに清志朗にも負けない程の形相であった。
そして第3球。
「負けてたまるか!」そう叫んで投げた、若狭の球は恐ろしい程の力が込った。
しかし陽一の体は瞬時に反応し、その若狭の投げたボールへと襲い掛かった。
カキーン!と音がなった。
陽一の打った球は、甲子園の夏空を貫かんばかりに、大空へと飛んでいった。
そしてそのままセンターバックスクリーンへと消えていった。
「あっ・・・」恵も茜も一瞬何が起こったのかわからなかった。
すると応援席にいた人達がワーーーーと割れんばかりの大歓喜を上げ、紙吹雪が当たり一面に舞った。
陽一は今年もやってくれた。
この仙台学園から、超特大の3ランホームランを放ったのだ。
甲子園の観客の大歓声は、恵の体内への振動となって響いた。
「陽一・・・」
「やったあ!」隣にいた茜は、恵に抱きついてきた。
あたり一面は涙を流して、抱き合う生徒達に溢れかえった。
これで6―4、港南学院は試合を再びひっくり返した。
しかも2点差。
陽一は大歓声の甲子園の中、ゆっくりとダイヤモンドを回り、高々とリストバンドを付けた左手を上げた。
若狭はマウンド上で、ガクッと肩を落とした。
陽一がホームに帰ってくると、ネクストバッターサークルの真とハイタッチした。
「陽一!ナイスバッティング!」
「ああ!やったぜ!」
二人は軽く抱き合った。
そしてベンチへ帰ってくると、選手達は大喜びで陽一を出迎えた。
そして陽一は、全員とハイタッチをした。
そのハイタッチの最中に、カキーンと音が鳴った。
「えっ?」
その金属音に、ベンチ全員が振り返った。
なんと次の打者の、真の放った打球が、ライト後方へと高々と上がっていったのだ。
そのボールは浜風に乗り、どんどん伸びていった。
そして、ライトスタンド中断へと消えていった。
なんと連続のアベックアーチとなったのだ。
完全なダメ押しだった。
「やったあ!」
選手全員が、その場を飛び跳ねてお互い抱き合った。
「徳永君!」
仁科先生は泣きながら陽一に抱きついた。
すると陽一も「先生!」と言って、仁科先生と抱き合いながらその場を飛び跳ねた。
実況のアナウンサーは大興奮して「遠山やりました!見事4番の期待に応えました!このアベックアーチで、試合が思いっきりひっくり返りました!7点目!7点目!港南学院7点目だあ!」と叫び、全国の視聴者にその模様を伝えた。