16、ゴールドメダル(4)
校歌斉唱が終わると、選手たちは一斉に3塁アルプススタンド前へと駆けていき、応援席に向かって礼をした。
歓喜の渦が巻き起こった港南学院応援席は3000名の大応援団。
陽一は滅多に泣かない男だった。
しかしその大応援団を見ると、陽一は感極まって涙をポロポロと流し、やがて号泣しだした。
キャプテンとしてのプレッシャー。
一流選手としての孤独。
つらい事も一杯あった。
泣きたい時もいっぱいあった。
出来て当たり前。
できなければ批判を一杯受けた。
辞めたいと何度も思った。
しかし、今この3000人の大応援団を前にして、陽一は始めて思った。
ここまでやってきて本当によかったと・・・。
陽一の男泣きであった。
「陽一・・・」
陽一の号泣する姿を見ると、恵も涙が溢れ出し、やがて周りの目も気にせずに「陽一!」と叫んでアルプス席の階段を駆け下りていった。
陽一は、泣きながら階段を駆け下りてくる恵に気付いた。
「恵!」
「陽一!」
恵が階段を下りてフェンスに手をやると、陽一もフェンスの側へと駆け寄ってきた。
そしてフェンス越しに二人は、涙目で見つめあった。
「恵・・・やったよ・・・やったよ・・・俺やったよ・・・」陽一はそう言いながら涙した。
「よかったね・・・ここまでやってきて本当によかったね・・・」恵の瞳からもポロポロと涙が流れ落ちた。
「恵・・・今まで本当に有難う・・・」
「ううん・・・私だって夢を見させてくれて有難う・・・」
そのまま二人は、フェンス越しに顔を合わせたまま、子供のように泣いた。
文麿は大応援団の中の弥生の姿を見つけた。
すると弥生は、ダンボールの紙で作ったプラカードを見せた。
『OKです I❤ふみまろ』
「本当かよ!」文麿は両手でガッツポーズをした。
弥生は涙目で白い歯を見せて、ニッコリと笑った。
少し興奮が冷め、甲子園の観客は少しずつ帰っていった。
そして陽一は、旧友の堀場へ挨拶をしに、仙台学園のベンチへと行った。
二人は報道陣のフラッシュも気にする事なく、グラウンドを見渡しながら話した。
「いやあ、まいったよ。あそこでホームランだもんなあ・・・」
「たまたまだよ」
「いや、その『たまたま』をあの場面で起こすのが、実力って奴だよ」
「そうかなあ」
「そうだよ。お前やっぱり何かあるよ。何かをする為に生まれてきたんだよ。俺はそう思うな」
陽一は黙って甲子園の空を見上げた。
「悔しいなあ・・・もう一回やりたいよ・・・」堀場は甲子園の空を見ながらそう言うと、笑顔で「もしプロで会えたら、その時は勝負だ」と言い、陽一に向かって拳を突き出した。
「ああ。勝負だ」陽一も笑顔で、堀場に向けて拳を突き出した。
試合後、港南学院のロッカールームは、いまだ興奮が冷めやらなかった。
しかし、ロッカールームには陽一の姿がなかった。
陽一はユニフォーム姿のまま外へと駆けていったのだ。
球場から出てきた観客達は、ユニフォーム姿で駆け抜ける陽一の姿を見て驚いた。
しかしあまりにもの俊足で、追いかける事も出来なかった。
人ごみの中、陽一が向かっていったのは、港南学院高校の野球部関係者のバス乗り場。
そう、陽一は恵のところへ向かっていったのだ。
恵はこれからバスに乗ろうとしていた。
すると「恵!」と叫んで、陽一が駆けてきた。
「陽一・・・」
陽一は、恵のもとにたどり着くと、はあはあと息を切らした。
「陽一、どうしたの?」
陽一はニコッと笑うと、恵の肩に優勝の金メダルをかけた。
恵は自分の肩に掛けられた金メダルをじっと見つめると、すぐさま顔を上げ陽一の顔を見て微笑んだ。
すると陽一は、あろうことか沢山の人がいる前で恵を抱き上げた。
「キャッ!」
そして周りの目も気にせずに、恵を抱き上げたままその場をグルグルと回った。
「恵!やったよ!優勝だよ!」
「やめて!はずかしい!みんな見てる!」
しかし陽一は、笑顔のままその場を回り続けた。
「陽一!やめてえ!」
こうして陽一達の夏の熱き戦いに、幕は降りた。