21、8のリストバンド(4)
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そして冬の三浦海岸へとやってきた。
恵は真理を抱きながら、海岸沿いを歩いた。
「めー、めー」
「真理ちゃん、真理ちゃん」
恵はずっと真理を抱いて離さなかった。
「真理は本当に恵の事が好きだね」
「えへへ。真理ちゃんかわいい」
「恵、絶対いいお母さんになるよ」
「そうかなあ」
「うん、今みてもお母さんみたいだもん」
しばらく二人は、潮風に吹かれながら三浦海岸を歩いた。
「ねえ恵」
「何?」
「陽一君を探そうよ」
その言葉を聞くと、恵の顔の表情が一瞬にして曇った。
「そして陽一君に会いに行きなよ」
「ごめん・・・茜・・・それは無理・・・」
「どうして?」
「・・・陽一の事は忘れたから」
「忘れてないよ」
「忘れた・・・」
「恵は陽一君の事を忘れたくて、お酒に逃げてたんでしょ」
「ううん。仕事が上手くいかないからだよ」
「違うよ、恵は、陽一君がいない苦しみから逃れる為に、お酒に逃げていた。本当は陽一君に会いたいんでしょ」
「茜、もうやめて・・・それ以上言わないで・・・別れるって言ったのは私だよ。陽一がアメリカに来いって言った時、私は断った。それを今さら会いに行くなんて・・・それに陽一にもきっと新しい彼女がいると思うよ」
「私、陽一君は今でも恵の事を好きだと思う。きっとアメリカの何処かで恵の事を想っていると思う。陽一君はそんな簡単に好きな人を忘れられる人じゃない」
恵は黙って下を向いた。
西宮に戻った茜は、ダブルベットで真と一緒に寝ていた。
茜は、目がさえて眠れなかった。
すると真は目を閉じながら「山野は立ち直れそうか?」と茜に聞いてきた。
茜は首を横に振った。
「複雑みたいね・・・」
「そうか」
「ねえ真、陽一君と連絡つかないの?」
「陽一は俺に電話するぐらいなら、とっくの昔に山野に電話してるよ」
「そっかあ・・・」
「でも、陽一は山野の事を忘れてないはずだ」
「わかるの?」
「ああ、わかるよ。あいつはコロコロと気分を変える奴じゃない。昔から一度決めた事は、絶対に覆さない奴だ。そんな陽一が、山野への思いを簡単に忘れるとは思えないんだ」
3月、港南学院野球部は同窓会を開く事となった。
司が幹事となって、全員を招集したのだ。
そして横浜の割烹料理屋に1年ぶりに集まる野球部員。
横浜国立大学へと進んで、工学部で勉強をする司。
デザイナー学校に通う由香子。
慶応義塾大学で野球をする文麿。
そして開幕を控えた、阪神タイガースの真。
しかし、そこには陽一の姿は無かった。
誰も陽一と連絡が取れなかったのだ。
恵は、自分は野球部じゃないからと言って最初断ったが、茜に無理矢理連れて行かれてしまった。
そして肩身狭そうに、ずっと隅っこの席に座っていた。
「恵、久しぶり」
由香子は畳の上で、動かない足をズルズルとひきずりながら、恵のもとへとやってきた。
「由香子!」
「元気にしてた?」
「うん。由香子は?」
「元気だよ。恵、私今デザイナー学校に通っているんだ」
「そうなんだ。由香子は障害者用のブランド立ち上げるって言ってたもんね」
「あはは。実はね・・・もう立ち上げたんだよ」
「ええ!」
「会社を作ったんだ。『YUKA』っていうブランド。これ見てよ」由香子はそう言うと、自分がデザインした服を着たモデルが、車椅子に乗っている写真を見せた。
そのモデルが乗っている車椅子は、以前由香子が恵に見せた携帯電話をデコるように飾った車椅子。
つまり『デコ車椅子』だった。
「すごい・・・かわいい・・・」
「でしょ?でも普通の車椅子とマッチしたファッションを探すのは難しいんだ。だからYUKAブランドは、素敵な車椅子もデザインするの」
「由香子すごい!」
恵は完全に圧倒されてしまった。