21、8のリストバンド(5)
そしてその後、恵は茜と一緒に話し込んだ。
「仕事の方はどう?」
恵は、寂しそうに首を横に振った。
「全然味が出せないの。もうどうしていいかわからない・・・」
「そうなの・・・」
「私、もう辞めようかと思うんだ・・・」
「そんな、折角就職出来たのに」
「ううん・・・私才能が無いの」
すると真が恵の前にドカッと座った。
「遠山君・・・」
そして真は文麿に「文麿!一升瓶頼め!」と言った。
「真!何する気!」
「決まってんだろ。山野と酒を飲むんだよ」
その真の言葉に茜は驚いて「真はお酒飲んだらダメ!出場停止になったらどうするの!」と言った。
だが真はそんな茜の忠告にも「茜うるせえ!出場停止なんてどうせ一ヶ月で済む。もっともっと大事な事があるんだよ!」と言って、無理矢理文麿に一升瓶を注文させた。
そして一升瓶がやってくると、真はトクトクとコップに注いで、その日本酒を一気に飲み干した。
「ふうう・・・山野、酒はこうやって飲め。愚痴愚痴言いながら飲むんじゃねえよ」真はそう言うと、再びコップにトクトクと酒を注ぎだした。
そして恵の前にドンと日本酒がたっぷり入ったコップを置いた。
「お前もこうやって一気に飲め!そして大きな声で陽一の事を好きと言え!」
「真!やめてよ!何考えてるの!」茜は真を必死に止めた。
「さあ言ってみろ!陽一が好きだって!」
恵は、テーブルに置かれたその酒を、じっと見つめていた。
そして、コップをとると、その酒を一気に飲み干した。
「恵!」茜は飲み比べをする両者を止めようと、慌てふためいた。
日本酒を一気に飲み干した恵は「陽一が好き・・・」とポツリと言った。
すると真は「声が小せえ!もっと大きな声で言え!」と言って酒を一気に飲んだ
そして再びコップに酒を注ぐと、恵の前にドンと置いた。
恵は再びその酒を一気に飲んだ。
そして「陽一が好きだよ」と言った。
「まだまだ小さい!もっと大きな声出るだろ!」
真はそう言って、再び酒をついだ。
「陽一が好きだよ!」
「もっと飲め!もっとわめけ!」
「陽一に会いたいよ!陽一が好きだよ!大好きだよ!」
「声が小せえ!」
「陽一が好きだよ!!!会いたいよ!!!」
「もっとだ!」
真と恵は、訳のわからない飲み対決をした。
この二人の得体の知れない行動に、まわりは完全に呆気にとられていた。
そして・・・
「まいったよ・・・さすがに酔っぱらった・・・」真は少し気分が悪そうだった。
「あたりまえじゃん。一体何考えてるの」
茜の運転する軽自動車は、鎌倉の恵の家へと走っていった。
そして後部座席には、チャイルドシートに眠る真理と、酔いつぶれて眠る恵の姿があった。
「俺さ・・・こいつが哀れでしょうがないんだよ」真はそう言うと、後部座席で酔いつぶれて眠る恵を指さした。
「どうして?」
「陽一が悪いんだよ」
「どうして?何で陽一君が悪いの?」
「陽一はこいつに決断を求めたからだよ」
「決断?」
「茜、もしお前はスカジョを中退せず普通に高校を卒業して、そして真理も産まれなかったとする。そして俺がロサンゼルスに行くと言ったら、どうしてた?ついてきたか?」
「う~ん・・・」茜は真の質問に答えが出ずに、黙り込んでしまった。
「山野より決断力のある茜ですら悩むんだぞ。そんな決断こいつにできるわけ無いだろ。俺が陽一の立場だったら、こいつが泣こうが喚こうが、無理矢理飛行機に乗せて連れ去る。そしたらこいつは最終的に陽一が決めた事だからと言って、納得した筈だよ」
真の言っている事は、ハッキリ言って無茶苦茶だった。
しかし、恵の性格をよく知る茜にとって、真の言った事は妙に説得力があった。
「じゃあなんで陽一君にそう言わなかったの?」
「陽一がそんな事できると思うか?」
「思わない」
「だろ」
二人はしばらく黙っていた。
すると真は、突然思いついたように喋りだした。
「でもさ・・・俺は、こいつらは結局もとの状態に戻ると思うんだよ」
「なんでそんな事が言えるの?」
「二人とも強い人間じゃねえからだよ。はっきりいって陽一は強い人間じゃないし、山野も強い人間じゃない。でもな・・・こいつらが力を合わせると、物凄い強さを発揮するんだよ。由香子の事故の件がいい例だ。結局こいつらは離れ離れになったら、生きていけないんだよ」
茜と真は、車内から見える夜の鎌倉の街を見つめた。
「茜、やばい・・・」
「どうしたの?」
「吐く・・・」
「やだ!ここで吐かないでね!新車なんだから!」
「おえええ!」
「きゃー!」