フォーエバー・フレンズ -206ページ目

21、8のリストバンド(6)

次の朝、恵の体には地獄が待ちうけていた。

目が覚めると恐ろしい二日酔いに体が襲われたのだ。

そして恵は、ずっと便器と友達になった。

「おえええええ!おえええええ!」

胃の中のものは全て吐き出し、胃液も空っぽになるまで吐きまくった。

そして昨夜の自分の失態を思い出した。

「私って本当に馬鹿だな・・・はずかしい・・・」

しかし、真の荒治療のおかげで昨日食べた物と一緒に、今までのモヤモヤも吐き出した気分になった。

陽一が好きと叫びまくった為、自分の中に一つの気持ちが生まれだした。



それは陽一を好きでいようと言う気持ちであった。



昼過ぎ、二日酔いから解放されると恵はシャワーを浴びた。

そして風呂場から出ると、以前陽一からもらった色違いの星のピアスを付けて、鏡の前に立った。

このピアスを付けるのは一年ぶりの事だった。

そして鏡に写る自分の顔を見つめた。

 

忘れられる訳ないんだ。

あれだけの素敵な思い出があって、忘れるなんて最初から無理だったんだ。

陽一・・・私はやっぱり陽一の事が好き。

ねえ陽一、何してるの?

今何処にいるの?

お願い・・・

教えて

会いたいよ・・・

 

数日後。

鎌倉の町に、再び桜の花が咲きだした。



恵は、今日も気が重そうに通勤をしていた。

ランドマークタワーの前に差し掛かると、タワー前のオーロラビジョンに、人だかりが出来ていた。

「徳永じゃん、メジャー昇格したんだな」

「おお、徳永だ!久しぶりだな。生きてたんだな」



徳永・・・



そんな名前を耳にした恵は、咄嗟にオーロラビジョンの前へと駆け出した。



すると、なんとそのオーロラビジョンには、ドジャースのユニフォームを着てバッターボックスに立つ陽一の姿が映しだされていた。



そして陽一の背中には、ドジャーブルーの色で描かれた『23』の背番号。

しかし左手には、その背番号とは全く違う番号、8と書かれたリストバンドが装着されていた。



そう、高校二年生の頃に、恵が陽一へと送った『8のリストバンド』である。

陽一はこの一年間、恵への思いを何一つ変えなかったのだ。

それは不器用な陽一の、海を越えた恵へのメッセージだった。



「陽一・・・」恵はそう言うと、思わず目に涙を浮かべた。



そしてそのメジャー初打席、陽一はいきなり豪快な本塁打を放った。

その瞬間、ランドマーク前の人だかりは「わあ!」と歓喜を上げた。




今日は4月6日。

陽一は桜の開花とともに、恵の前へ現れた。

陽一は帰ってきた。

恵の前、いや、全国民の前に帰ってきた。

スーパースター陽一が帰ってきたのだ。

躍動感溢れるダイナミックな守備。

右手より放たれるレーザービーム

俊足を生かした、抜群の走塁センス

打てば空を貫く程の弾道。

そして甘いマスク・・・。

彼こそが、真のスーパースターだ。

そして陽一の快進撃が、今ここに始まった。


ドジャー・スタジアムのグラウンド - 写真素材
(c) 森天写真素材 PIXTA