21、8のリストバンド(6)
次の朝、恵の体には地獄が待ちうけていた。
目が覚めると恐ろしい二日酔いに体が襲われたのだ。
そして恵は、ずっと便器と友達になった。
「おえええええ!おえええええ!」
胃の中のものは全て吐き出し、胃液も空っぽになるまで吐きまくった。
そして昨夜の自分の失態を思い出した。
「私って本当に馬鹿だな・・・はずかしい・・・」
しかし、真の荒治療のおかげで昨日食べた物と一緒に、今までのモヤモヤも吐き出した気分になった。
陽一が好きと叫びまくった為、自分の中に一つの気持ちが生まれだした。
それは陽一を好きでいようと言う気持ちであった。
昼過ぎ、二日酔いから解放されると恵はシャワーを浴びた。
そして風呂場から出ると、以前陽一からもらった色違いの星のピアスを付けて、鏡の前に立った。
このピアスを付けるのは一年ぶりの事だった。
そして鏡に写る自分の顔を見つめた。
忘れられる訳ないんだ。
あれだけの素敵な思い出があって、忘れるなんて最初から無理だったんだ。
陽一・・・私はやっぱり陽一の事が好き。
ねえ陽一、何してるの?
今何処にいるの?
お願い・・・
教えて
会いたいよ・・・
数日後。
鎌倉の町に、再び桜の花が咲きだした。
恵は、今日も気が重そうに通勤をしていた。
ランドマークタワーの前に差し掛かると、タワー前のオーロラビジョンに、人だかりが出来ていた。
「徳永じゃん、メジャー昇格したんだな」
「おお、徳永だ!久しぶりだな。生きてたんだな」
徳永・・・
そんな名前を耳にした恵は、咄嗟にオーロラビジョンの前へと駆け出した。
すると、なんとそのオーロラビジョンには、ドジャースのユニフォームを着てバッターボックスに立つ陽一の姿が映しだされていた。
そして陽一の背中には、ドジャーブルーの色で描かれた『23』の背番号。
しかし左手には、その背番号とは全く違う番号、8と書かれたリストバンドが装着されていた。
そう、高校二年生の頃に、恵が陽一へと送った『8のリストバンド』である。
陽一はこの一年間、恵への思いを何一つ変えなかったのだ。
それは不器用な陽一の、海を越えた恵へのメッセージだった。
「陽一・・・」恵はそう言うと、思わず目に涙を浮かべた。
そしてそのメジャー初打席、陽一はいきなり豪快な本塁打を放った。
その瞬間、ランドマーク前の人だかりは「わあ!」と歓喜を上げた。
今日は4月6日。
陽一は桜の開花とともに、恵の前へ現れた。
陽一は帰ってきた。
恵の前、いや、全国民の前に帰ってきた。
スーパースター陽一が帰ってきたのだ。
躍動感溢れるダイナミックな守備。
右手より放たれるレーザービーム
俊足を生かした、抜群の走塁センス
打てば空を貫く程の弾道。
そして甘いマスク・・・。
彼こそが、真のスーパースターだ。
そして陽一の快進撃が、今ここに始まった。
(c) 森天
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