二、時空を超えて(第五話)
昭和19年。
日本はアメリカ合衆国と、絶望的とも言えるような戦いを行っていた。
その年の6月に、帝国海軍の主力空母部隊はマリアナ沖で壊滅的な敗北を期し、そして取り残されたグアム島、サイパン島は、瞬く間に陥落した。これでアメリカ軍は長距離爆撃による日本本土への空襲が可能となった。
さらにアメリカ大空母艦隊は、日本軍重要拠点の一つであるフィリピンへと進軍。これにより日本は、危機的な状況に晒される事となる。
この国家の危機的な状況を鑑み、フィリピンを守る大西瀧治郎少将率いる第一航空艦隊は、艦上戦闘機に250kg爆弾をくくりつけ、敵艦へ体当たりをする事を発案。
そして勇敢なる若者達は、レイテ沖のアメリカ大空母艦隊へ向け次々と発進していった。
『神風特別攻撃隊編成』
それは国家存亡の危機に猛然と立ち向かう、純粋かつ勇敢な美しき若者達であった。
昭和20年。
既に帝都東京は、マリアナ方面から飛来する長距離爆撃機B29の焼夷弾で、焼け野原と化していた。
窮地に追い込まれた海軍軍令部は、特攻攻撃『菊水作戦』を発動。日本海軍屈指の戦艦『大和』を、一億玉砕の先駆けとして、沖縄への水上特攻作戦を敢行させた。
そして航空機の支援のない戦艦大和は、敵航空部隊から約40発の爆弾と、12発の魚雷を受け、日向沖へと沈没。
そして鹿児島の鹿屋基地は神風特攻隊の基地となり、日々沖縄方面の敵艦隊に向け特攻機を発進させていた。
「止まれ!」
そう言って銃剣を構える兵士に、真治は驚き飛び上がった。
「動くな!」
「は!はい!」
真治は慌てふためいて両手を挙げた。
すると続々と銃剣を持った兵士達が、真治の周りに集まってきた。
「なんだこいつ!」
そう言うと兵士は真治が下げていたカメラ用のバックに書かれてある文字を見つめた。
『Cаnon』
「こいつ!米兵だ!」
「えっ?違う!違う!どうなっているんだ!」
「連行しろ!」
結局真治は、数名の日本兵に捕らえられ、そのまま基地司令室へと連れて行かれた。
今の状況が全く掴めないでいた。
そして司令室に入ると、そのまま兵士達から取り調べを受けた。
「なんだこれ『SevenStars』???これはアメリカ煙草か?」
兵士は真治のポケットに入っていたタバコを手に取り、じっと見つめていた。
「いや、小野少尉違いますよ。日本語も入っていますよ。未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響・・・とか書いていますよ」
「なんだこれ???」
すると真治が「あの・・・どうぞ。吸ってください」と言い出した。
「はあ?青酸カリでも入ってるんだろ?」
「青酸カリ???じゃ、じゃあ僕が吸ってみます」
そういうと、真治はセブンスターを一本手に取り、百円ライターで火をつけ吸い出した。
もくもくと上がるタバコの煙。その美味しそうにタバコを吸う姿を見ていると、他の兵士も羨ましそうな顔をしはじめた。フィルター付のたばこなんてこの当時は無かったのだ。
「お、おれにも一本くれないか?」
小野少尉がそう言うと、真治はニッコリと笑ってセブンスターを差し出した。
とにかく今の状況が全く掴めない。ここは一体何処なのだろうか?
やがて沢山いた兵士達は部屋から出て行き、小野少尉一名だけが真治の取調べを始めた。
「お前は何処から来たんだ?」
「東京です。大手町の大東京新聞社というところを出て、国会議事堂へ向う最中に急に・・・」
「東京って?お前ここは鹿児島だぞ」
「か、鹿児島???」
「ここは鹿屋基地だ」
「鹿屋???」
「海軍航空基地だ。ちなみに俺は小野慶四郎といい、この鹿屋基地の主計参謀だ」
「海軍?少尉???あの・・・ひょっとして・・・今は平成何年ですか?」
「平成???なんだそれ???」
「げ、元号です」
「元号は昭和だ。今は昭和20年だ」
「ええ!昭和20年???」
真治はやっと自分がタイムスリップしてしまった事に気が付いた。
「お前の名前は?」
「く、久保川真治と言います。昭和50年生まれの36歳」
「しょ、昭和50年???」
「本当なんです。出身地は神奈川県の大磯。勤務先は大手町の大東京新聞社。記者をやっています」
「はああ???」
小野少尉も、真治と同じくしてパニックになってしまった。
するとその時、入口の扉がガチャッと開いた。
驚き振り返ると、そこには海軍士官の軍服に身を包んだ、背の高くスマートな男性が佇んでいた。年の頃30歳前。スッと高い鼻に切れ長の瞳は、まるで映画俳優のようにも見えた。
「どうしたんだ?」
「あ、久保川大尉!」
小野少尉は咄嗟に直立不動で敬礼をした。だがその二枚目の海軍士官は、キョトンとした顔をしていた。
「一体何が起こったんだ?」
「いえ、その・・・基地内に不審者がおりまして、捕らえたところ私もわからなくなってしまって・・・その・・・敵の諜報機関かと・・・」
「諜報機関?こんな戦局なのに、敵はわざわざ命をかけて諜報活動をするのか?わはは」
「しかし!」
「わかった。もういい。席を外せ」
「は!」
そう言うと、小野少尉は足早に司令室を去って行った。