二、時空を超えて(第七話)
ある日真治が、基地内のトイレ掃除をしていると、飛行場から男達の歌声が聞こえてきた。
海ゆかば水漬く屍
山ゆかば草むす屍
大君の邊にこそ死なめ
かえりみはせじ
そして万歳三唱の声。
「天皇陛下万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
一体何が始まるのかと思い飛行場の方へやってくると、まだ年の頃20か、それに満たないぐらいであろうか。飛行服に身を包んだその若者達は、笑顔で戦闘機へと乗り込んでいった。
そしてその若者達が乗り込んで行った零式艦上戦闘機は、爆音を轟かせながら、鹿屋飛行場をゆっくりと離陸して行った。
そう、彼らこそが『神風特別攻撃隊』である。
彼らは500kgもの爆弾を搭載した飛行機を操縦し、そのまま敵艦に体当たりを敢行するのである。
「若い・・・まだこれから未来の在る者達ばかり・・・何故・・・」
真治はその飛び行く戦闘機を見て、思わず呆然としてしまった。
おじいさんは命令の為に行っているから仕方が無いと思っていた。しかしまだ20にも満たない若者が特攻機に乗り込んで行く姿を見ると、いてもたってもいれなくなってしまった。
百聞は一見にしかず。厳しい現実を目の当たりにすると考えも変わってしまう。
その後真治は、司令室の清掃を行っていた。すると久保川大尉が部屋の中へ入ってきた。
「久保川、どうだ基地の生活には慣れたか?」
「はい・・・」
「どうした浮かない顔をして。俺の顔に何か付いているのか?」
「いえ・・・」
「何だ?言ってみろ」
「久保川大尉はこの戦争が負けるとわかっていながら、何故毎日特攻機を飛ばしているのですか?」
「・・・」
「今日7機も特攻機を飛ばしました。でも搭乗員の中にはまだ成人になってない者だっていました。まだまだこれからの未来がある者達ばかりです?何故こんな事をするのですか?」
「黙れ」
「黙りません。無意味に若者を殺していいのですか」
「お前に一体何がわかる!」
「わかりません!上からの命令だからですか?」
「違う!」
「じゃあ何故ですか?」
すると久保川大尉は、ゆっくりと天井を見上げた。
「これは、国を守りたいと願う若者達の心だ」
「そんな・・・」
「戦争に負けるのはみんなわかっている。しかし、特攻作戦は講和を有利に進める為に必要だ」
「日本は無条件降伏をします。でも日本は植民地にはなりません」
「お前の住んでいた世界ではそれが常識なのかもしれない。しかし、敗北しながらも日本が自主権を勝ち得たのは何故だ?」
「それは、アメリカはあなたが思うような国じゃないからです。平和的な民主国家だからです」
「じゃあ何故欧米諸国はアジアを植民地化したのだ?何故アメリカは黒人を奴隷として扱ったのだ?」
「・・・」
「何故奴隷化されたのか?それは抵抗をしなかったからだ。勝てないと思って抵抗する事をあきらめたからだ。違うか?だからここにいる隊員は負けるとわかっていながらも、国家の威信を掛けてこの作戦に参加している」
「私にはよくわかりません」
「平和ボケした社会に住んでいればわからないのは当然だ。だから俺は堕落したお前の時代の人間に、特攻の事を理解してもらおうとは思ってはいない。だが・・・1000年後の日本人は、きっと俺達の事をわかってくれる筈だ」
「・・・」