三、未来から来た新聞社(第九話)
真治は翌朝、早速司令室を訪ねた。
「久保川、どうかしたのか?こんな朝早くに」
突然の真治の訪問に、久保川大尉は一体何があったのだろうかと思い、少しキョトンとしていた。しかし、そんな久保川大尉の表情をよそに、真治は、自信満々な態度で話し始めた。
「66年後の世界で、僕は新聞記者をやっています。なので特攻隊員を取材してみたいと思っているのです。是非許可して下さい」
「取材?」
「はい」
「目的は何だ?」
「はい、実は昨夜、ある特攻隊員と話しをしました。国を守る為、愛する人を守る為に戦うその姿に感銘を受けました。だから彼らを取材し、その美しき姿を写真に納めたく思います。後世に伝えたいのです」
そう言うと、真治は自慢げに一眼レフ型のデジタルカメラを取り出した。
「これはデジタルカメラと言います」
「デジタルカメラ?」
「はい。現像しなくてもいいカメラです」
そういうと、久保川大尉をパシャリと撮影した。
「な、なにをするんだ!」
久保川大尉がそう言って驚いていると、次に真治は、小型現像プリンターをカバンの中から取り出し、あっと言う間に久保川大尉のカラー写真を作り上げてみせた。
「なんと!これが未来の文明の力か?しかも色がついてる!」
白黒写真しかないこの時代に、カラーでしかも1600万画素の鮮明な写真。しかもすぐに仕上がる。目の前に起きた奇跡に、久保川大尉は目をまん丸くさせた。
しかし、そんな久保川大尉を気にする事もなく、真治は自信満々の説明を続けた。
「これでしっかりと彼らを撮影し、記事を書くのです。これだけじゃありません」そう言うと今度は、カバンの中から小型のノートパソコンを取り出した。
「なんだそれは?」
「パソコンです。これにはワープロ機能が付いていまして、これで特攻隊員の記事を作る事も可能です。もちろんデジカメの画像も取り込めます」
久保川大尉は、恐る恐るノートパソコンの画面を見つめた。するとワードの画面にパパパと変換される漢字に思わず驚いてしまった。
「凄い・・・これは紙に印刷できるのか?」
「はい。でもこの時代にはプリンター・・・いえ、専用の印刷機が無いので出来ません」
「そうかあ・・・未来は凄い世界だな・・・これがあれば作戦書の作成も簡単だな。他には何か無いのか?」
「そうですねえ。そうだ未来の音楽を聴いてみませんか?」
「未来の音楽?」
「はい」
そう言うと真治はIPODを取り出し、イヤホンを久保川大尉の両耳にはめさせた。そしてスイッチを押すと、いきなり大音量のBzの音楽がなりだし、久保川大尉は驚き飛び上がった。
「な、なんだこれ!うるさい!」
そう言うと、咄嗟にイヤホンを剥ぎ取った。
「あ、すみません。ロックはまだ早すぎですかね。それじゃあこれなんてどうですか?」
そう言うと真治は、Ipodの曲を変えてみた。すると今度はイヤホン越しに、森山直太郎の『さくら』が流れ出した。
久保川大尉は恐る恐るイヤホンをはめてみた。すると森山直太郎の美しい声が脳内に響き渡り、思わずウットリとして目を閉じてしまった。そしてしばらくの間、司令官室のソファーに座り、その曲を聴き続けた。
曲が終わると久保川大尉は、両耳にはめたイヤホンをゆっくりと外した。
「う~ん。男の癖に女のような甘い声だな。不思議な歌だ。でも、嫌いじゃない・・・なあ、これはなんて歌なのだ?」
「森山直太郎の『さくら』といいます。未来の歌です」
「そうか『さくら』かあ・・・今も未来も、桜は日本人の心の花なのか」
「はい、全くその通りです」
「わかった。取材してもいいぞ。但し新聞社は他にも一杯いるからな。あんまり出しゃばるなよ。連合艦隊司令部にこの話がいったらやっかいだからな」
「わかりました。有難うございます!」
「但し条件がある」
「な、なんですか?」
「この音の出る小さな機械を、しばらくの間俺に貸してくれないか」
「あはは。いいですよ。どうぞご自由に使ってください」
そしてこの日から真治は、基地の中で仕事をしながら、特攻隊員の取材を開始しだした。