ニ、時空を超えて(第八話)
『1000年後の日本人は、きっと俺達の事をわかってくれる筈だ』
夕焼け染まる鹿屋飛行場。
真治は久保川大尉の言葉を思い出しながら、ずっと飛行場横の草むらに腰掛けていた。
すると、まだ年の頃16ぐらいだろうか。まだ表情に幼さの残る若者が、ハーモニカを吹いていた。その曲はなんとなく聞き覚えのある曲だった。
真治がその少年の姿をじっと見ていると、その少年は真治の視線に気がついたのか、ハーモニカを吹くのを止め、真治をみてニコリと微笑んだ。
そして真治の側までくると、深く頭を下げた。
「はじめまして。本日配属になりました武田虎之助と言います」
「あ・・・僕は久保川真治って言うんだ。宜しく」
「宜しくお願い致します」
「あの・・・今の曲は?」
「ああ、淡谷のりこの『別れのブルース』です」
「そうかあ、淡谷のりこか・・・つい最近亡くなったなあ」
「え?」
「いやいや」
そしてその夜、真治は虎之助と一緒に美しい鹿屋の夜空を見ていた。
「そうですか。未来から来たのですか」
「うん。そうだよ」
「ねえ、未来ってどんな世界なのですか?」
「う~ん・・・そうだなあ・・・300キロで走る列車があるんだ。新幹線と言ってね。東京から大阪まで3時間ぐらいで行けるよ」
「へえ凄い。見たいなあ」
「それにゼロ戦よりも速く飛ぶ旅客機があって、自由に海外旅行にだって行ける」
「わあ、凄いなあ」
「もちろん宇宙に行けるロケットだってある」
「そうかあ。いいなあ」
虎之助君は、そんな夢のおとぎ話のような話を、笑顔でうんうんと言って聞いていた。
しかしそんな虎之助君の顔をみていると、真治は急に悲しくなってきた。こんな少年が、国家の為に死なないといけないのか?と思ってしまったのだ。そして、不意に虎之助君に質問をしだした。
「虎之助君。君は特攻隊に自ら志願したのか?」
「そうです。自分から志願しました。お国の為に立派に働きたいのです」
「でも長生きすれば、今話したものを全て見る事出来るんだよ」
真治のその言葉を聞くと、虎之助はゆっくりと首を横に振った。そして美しい夜空を見ながら話し出した。
「僕は見られなくてもいいんです。でも、妹にはその素敵な未来の世界を見せてあげたい。だから僕がこうやって頑張っていれば、きっと未来の人が幸せになれるんだと信じます」
「・・・」
その言葉を聞いて、真治は思わず目に涙を浮かべてしまった。
まだ笑顔にあどけなさの残る若干16歳の武田虎之助君。
しかし彼の心は聡明で美しく、優しく、そして力強く。
この時代、日本にはまだ日本人と呼べる者が存在していた。
そして真治は一つの決心をした。それは彼らの美しき姿を、後世にしっかりと伝えようという思いであった。