フォーエバー・フレンズ -195ページ目

二、時空を超えて(第六話)

その後、久保川大尉による取調べが始まった。しかし、久保川大尉は全く落ち着いた態度で、真治の話に聞き入っていた。

「そうかあ、お前も久保川って言うのか?」

「え?そうなのですか?」

「ああ、俺の名前は久保川武雄って言うんだ」

「く、久保川武雄!!!」

「どうかしたのか?」

久保川武雄とは、まさしく真治のおじいさん。雅史のお父さんの名前である。しかし、おじいさんと言って信じてもらえるとも思えなかった。なので結局、その事について何も話さなかった。

「い、いえ・・・その・・・出身地は何処ですか?」

「俺か?神奈川の大磯だ。海が綺麗な町でなあ。お前は?」

「私はその・・・同じです。大磯です」

「そうか。同郷か。奇遇だなあ。ひょっとして遠い親戚かもな」

「はい・・・そうかもしれませんね」

真治はこのまま押し問答を続けていても仕方の無いように思えてきた。そして思い切って自分がタイムスリップしてきた事を言ってみようと思った。

「あの・・・久保川大尉」

「なんだ?」

「もしも・・・もしもですよ。もしも私が未来から来たとします」

「うん」

「そうしたら久保川大尉は信じてくれますか?」

「う~ん。つまり貴殿は未来から来られたという事だな」

「はい・・・信じてくれますか?」

久保川大尉は、しばらく「う~ん」と言って天井を見上げて考え込んだ。その姿は全く取り乱す様子でもなく、指揮官らしく至って冷静な態度であった。

「未来から来たという事は、これから起こる未来を知っている訳だな」

「はい知っています」

「それじゃ聞いてみたい。この戦争の結末はどうなるんだ」

「それが・・・」

「どうなるんだ?」

「申し上げにくいのですが、日本は負けます」

「そんな事は知っている」

「えっ?知っているのですか?」

なんと久保川武雄大尉は、この時もうすでに日本の敗戦を予測していた。学校の授業では、みんなが勝つと信じていたと教わった太平洋戦争。しかし、久保川大尉はそれに当てはまらなかった。

「そりゃわかる。俺は海軍大尉だぞ。現在の日米の戦力分析を考えればそんな事すぐにわかる。知りたいのはどのように負けるかなんだ。日本はアメリカの植民地になってしまうのか?それとも自主権を維持できるのか?」

「ちゃんとした独立国です。但し一部の米軍はそのまま駐留します」

「なるほど。準植民地ってとこだな」

「は、はい」

「陛下の地位は守られるのか?」

「ええと。国家の象徴となります。憲法上の実権は無くなります」

「そうか」

その後、真治と久保川大尉の会談は深夜までに及んだ。

「そうかあ・・・支那は毛沢東が制するのか」

「はい。蒋介石は敗れて台湾に逃れます」

「歴史ってわからないものだな。まさかあの烏合の衆の中共が勝つなんてな。それを思えば、支那事変なんてやるもんじゃなかったな。支那は広くて人口も多い。武力だけでは到底制圧出来ない」

「それとソビエトは崩壊します」

「そうなのか。陸軍が反共反共って目くじらたてなくても、自然に滅びたのか。まあ、変な話だ。で、お前がいた66年後の日本はどういう世界なんだ?」

「ええと・・・日本は朝鮮半島、台湾、満州国を無くしましたが、国民総生産500兆円で世界第三位の経済大国です」

「そうか。領土の広さと豊かさは比例しないのだな。それは今でもなんとなく痛感する」

「但し、赤字国債残高がかなり多く、980兆円です」

「980兆円!凄い数字だな。よく国家として成り立つもんだ」

「はい。まさしくその通りです」

「しかし未来の人間はよほど堕落しているのだな。戦をしないなら戦費も必要ないだろ。何故そんなに借金をするんだ?」

「・・・」

久保川大尉の言っている事は正論だった。

現代の日本人は平和な世界に住みながら、その平和の恩恵に甘んじていた。

大して痛くも無いのに病院へ通い、救急車をタクシー代わりに使う者。権利の主張だけが強くつまらないトラブルで訴訟を起こす者。増税には断固反対するものの、貰える補助金には目の色を変える者。

このような借金地獄の社会にしてしまったのは、国民一人一人の責任ではないのか?

かつて真面目で働き者と言われていた日本人。しかし現代の日本人は、完全に堕落した民族になってしまったのだ。

「わかった。まあ、お前の言う事を信じよう。信じないと何も進まないからな」

「あ、有難うございます」

「でもお前、これからどうするんだ?どうやって未来に帰るつもりなんだ」

「それが・・・どうやってこの時代に来られたのかもわからないので・・・」

「そうか。じゃあしばらくこの基地にいればいい」

「えっ?いいのですか?」

「ああ、上層部はすっかり戦意を喪失してしまっていてなあ。最近は何も言ってこない。そのかわり、お国の為にしっかりと働いてくれ」

「あ、ありがとうございます!」

こうして真治は、久保川大尉の配慮で、この鹿屋基地に寝泊りさせてもらう事となった。しかし、軍隊の生活は決して甘くない。

朝は4時半に起床し、隊員の食事の用意と基地内の清掃。昼は土嚢を積み上げての塹壕を作り、戦闘機の掃除もする。

夏がもうすぐやってこようとしている鹿屋基地。真治は時折額に汗をにじませながら、一生懸命に働いた。