四、大空のサムライ達(第十三話)
「特攻機の燃料は片道だけで十分だ。そんな余裕があるなら343空の為に取っておけ!誰が本土の防空をすると思っているんだ!」
そう言って整備員を怒鳴りつけるのは、343航空部隊の小隊長、大野宗徳中尉。まさに海軍屈指の名パイロットである。
「しかし・・・久保川司令が特攻機の燃料は満タンにしろと・・・」
整備兵が、少し困った表情でそう言うと、大野中尉はさらに睨みを利かせる。
「はあ、お前ら馬鹿か!敵艦に体当たりする機を満タンにする必要があるか!連合艦隊司令部も特攻機には片道の燃料しか割り当てないと言ってるんだぞ!」
そう言って罵声を発すると、後ろから「馬鹿野郎!」という声が聞こえた。その声の主は、久保川大尉であった。
「く、久保川司令!」
そう言うと大野中尉は、咄嗟に直立不動で敬礼をした。
「仮に敵艦まで行けたとしても、あの世に行く燃料が無いだろ!」
「しかし我帝国には燃料がないのです」
「だまれ!」
「はっ!」
大野中尉は、再び直立不動の敬礼をした。
「お国の為にこれから死に逝こうとするものに、燃料も満足にくれてやれないとは何事か!だったらそんな戦争止めてしまえ!特攻機は燃料を満タンにして飛ばす。片道だけの燃料じゃ三途の川を渡れないだろ。343空こそ燃料を節約して飛べ」
そう言うと、久保川大尉はぶらぶらと歩きながら立ち去って行った。
その時、空襲警報のサイレンが鳴り出した。
ウ~ウ~
『沖縄方面より敵機襲来。その数40機。343航空部隊は直ちに出動せよ!』
その放送を聞くと、熟練の343航空部隊は次々と紫電改に乗り込み、そして、2000馬力エンジンの爆音を轟かせながら鹿屋飛行場を飛び立っていった。
真治が初めての空襲警報にどうしていいかわからず、ただただオロオロと辺りを見回していると、虎之助君が走ってやってきた。
「久保川さん!こっちです!」
「あ、虎之助君!」
「早く!」
虎之助君はそう言うと、真治の手を引っ張り高射砲が配置された塹壕へと駆け込んでいった。
そして数分経つと、遠くから日本軍機とは違うエンジン音がバラバラと聞こえてきた。
「敵機だ!」
虎之助君はそう言うと、高射砲を構えた。
沖縄方面からやってきたグラマン機。それはまさしくアメリカの精鋭部隊である。その精鋭部隊に、343航空部隊は容赦なく襲い掛かった。そして、鹿屋上空では両軍機のドッグファイトが展開された。
バフッ!
音を立てて引火したグラマン機は、そのまま炎に包まれながら墜落していく。
「やったあ!」
虎之助君は日本軍機の活躍に大声を張り上げた。いや、他の塹壕にこもる兵士達も同じだった。ワーッと手を上げながら歓喜をあげる。
まさしくこれこそが戦争であった。真治は目の前に遭遇した、まるで映画のような世界に、ボーゼンとしてしまった。
しかし紫電改もグラマン機と同じように被弾し墜落していく。そして、343航空部隊の迎撃を見事にかわした敵攻撃機が、飛行場へと接近してきた。
「うて!!!!!」
その声に反応するかのように、各塹壕の高射砲はババババッと音を立て一斉に攻撃を開始した。
被弾しながら墜落していくアメリカ攻撃機。彼らにも遠いアメリカに家族という者がいたであろう。しかし戦争という無常さに彼らは遠いこの極東の地で命朽ち果てた。
ワーッという歓喜の中、真治は一人その被弾して墜落していくアメリカ軍攻撃機の姿をじっと見つめていた。
これこそが戦争である。
一時間にも及ぶ戦闘の末、アメリカ軍機は撤収。日本軍はアメリカ軍機を4機撃墜。しかし5機の未帰還も出してしまった。
一度の戦闘で日米合わせて10名以上が死亡したことになる。
神は何故この地球上に、人種、言語、宗教の壁というものを作り上げたのだろうか?
それはまるでお互いが戦って殺し合い、優秀な遺伝子のみを後世に残していくという、自然界の掟のようにも感じてしまう?
しばらく経つと、343航空部隊が次々と帰還してきた。そして大野中尉の愛機も無事帰還。
大野中尉の愛機は、機体が全くぶれずにサッと着陸。まさしく熟練のなせる技である。
その様子を見て虎之助君は「かっこいいなあ。僕も着陸出来るようになりたい」と言い出した。
「えっ?虎之助君は着陸が出来ないのか?」
「はい。離陸さえ出来れば体当たりは出来るので、着陸のやり方は教えてもらっていません」
虎之助君は、こんな突拍子もない事を平然と笑いながらと言ってのけた。
「そうなのか・・・」
「でも、本当は343空に入隊したいです。そして紫電21型に乗って、大空を飛んでみたいです。僕もエースパイロットになってみたい」
虎之助君の夢は、エースパイロットとなり、紫電21型戦闘機に乗り大空を飛ぶ事。しかし時代の荒波により、彼は爆弾として扱われる事となった。
そんな無常な世の中でも、虎之助君は一生懸命に生きていた。