フォーエバー・フレンズ -187ページ目

四、大空のサムライ達(第十四話)

真治は特攻隊の兵士達と同じ部屋で寝ていた。

未来から来た新聞記者である真治に、若き特攻隊員達は毎晩いろんな事を聞いてきた。

「これが携帯電話と言うのですか?」

そう言って携帯電話を手に持ちながら驚くのは『大前正一君』と言う。20歳の少し小柄な若者である。

「そう、基地局の無いこの時代では使えないけど、66年後の世界では、いつでも何処でもこれで話す事が出来るんだ」

「そうか。まるで文明開化ですね」

「いや、そうでもないんだ。60年の歳月をかけてゆっくりと進化していったんだよ」

「そうですか・・・それにこの電卓というのがあれば算盤もいらないし、写真機もついているし。ラヂオも付いているし。つまりこれ一つ持てばほとんど必要が無いって事ですね」正一はそう言うと、真治の携帯をまじまじと見つめた。

「ところで大前君。君は、一時帰郷はしないのか?」

「はい。しません」

「ご家族は?」

「焼津に姉と弟と妹がいます。父と母は病気でもうこの世には・・・」

「お姉さんには、特攻隊に入隊した事を告げたのか?」

「いえ・・・」

「何故何も言わないのだ?」

「会うと泣いてしまうかもしれません。泣き顔を見られたくはありませんので」

「泣き顔を見られたくない?」

「男は泣くもんじゃありません」

「泣いてもいいじゃないか。人間なんだから」

そんな真治の言葉を聞くと、正一は、ニコリと微笑んだ。

「焼津は魚が本当に美味しいんですよ。かつおが生で食べられるんです。とれたてだから、臭みがなくて、トロリとしているんですよ」

「・・・」

「父と母が亡くなってから、姉は近所の缶詰工場で働いて、自分と妹と弟を一生懸命育ててくれたんです。僕達が成人するまでは、結婚しないで頑張ると言って」

「・・・」

「姉は22歳。この歳まで涙一つ見せませんでした。本当は泣きたかった事もいっぱいあったでしょう。だから僕も泣きません。このまま自分は敵艦隊に体当たりをし、笑って死んで行きます」

「正一君!」

「いいんです。出征が決まった時点で、自分はもう生きて帰ってはこれないと思って、故郷に別れを告げたのですから」

そう言うと正一は、その場にゴロリと寝転がった。そして薄暗い裸電球の明かりを、ぼんやりと見つめた。




アメリカ空母部隊からの空襲は、スコールのように毎日決まった時間にやってきた。

「空襲警報発令!各自戦闘配置に付け!」


グラマンと紫電改のドッグファイト。その姿はまるで、アクロバット飛行かの如く大空に飛行機雲の曲線を描く。

2000馬力級のエンジン音。バババと鳴り響く機銃の音。これは実戦だが、時に美しいとも感じてしまう。


大野中尉の特技は木の葉落しと言い、背後を付かれると思いっきり急上昇し、敵戦闘機にわざと追いかけさせる。そして登りきったところでエンジンを停止させ、自然の力で機体を降下させるのである。

すると、いつのまにか敵戦闘機の背後に位置し、そのまま攻撃し撃墜させる。

これはまさしく神の領域である。


ドッグファイトの最中燃料が少なくなり、大野中尉の愛機が鹿屋飛行場に着陸してきた。そして操縦席の中から整備兵達に「燃料たのむ!」と言うと、続々と整備兵がやってきて、大野中尉の愛機に給油を行った。

熟練の整備兵の給油作業は恐ろしい程手早く、現代のF1のピットイン顔負けである。そして給油が済むと大野中尉は「よし!もういっちょいくぞ!」と言って、再び大空へと飛んで行った。


343航空部隊は、基地内では我々は選ばれし者と威張っている感があったが、大空で戦うその姿はまさしくサムライとでも言うべきだろう。




戦闘が終わると、343航空部隊が続々と帰還してきた。

そしてこの鹿屋基地のエースパイロットを取材してみようと、真治は帰還してきたばかりの大野中尉に走り寄った。

「おお、あんたは未来の新聞記者じゃねえか」

「そうです。皆様の活躍を66年後の世界に伝えようと思い、取材をしています。戦闘を終えて感想はいかがですか?」

「ははは、グラマンなんざ屁でもねえよ」

「紫電21型の乗り心地はいかがですか?」

「最悪だ」

「最悪・・・ですか?」

「ああ、こんなもんは下手な奴の乗る戦闘機だ。零式のような自由さがない」

すると、奥にいた虎之助君が歩いてきて、恐る恐る大野中尉に質問しだした。

「あの・・・自動空戦フラップって何ですか?」

「ああ、その時の機体角度によって、水銀の力でフラップ角を自動で動かすのさ」

「凄い!やっぱり最新鋭だ!」

「馬鹿野郎!」

「はっ!」

「自動のもんなんかに頼るな!一流のパイロットなら、その時その時の気流の流れも読んでフラップを操作しろ。大体こんなもん作るから最近の野郎は工夫をしねえんだ!」


「ちょっとついてこい!」

大野中尉はそう言うと、虎之助君と真治を自分の愛機の側へと連れて行った。

「攻撃こそ最大の防御。だから俺はいつも20ミリ機銃で戦うんだ」

そう言って自慢げに語る大野中尉。しかし虎之助君はなんとなく納得がいかなかった。

「あの・・・20ミリ機銃は命中しづらいと聞きますが」

「それが違うんだ。20ミリ機銃は初速が遅いから弾道が垂れる。だから普通に撃っても命中しないんだ。だから重力と風を読むんだ」

「重力と風???」

「そう、弾は重力や風で流される。その流れ具合を読んで撃つ。つまり、右から左に風が流れる時は、敵機の右上を狙う。そうすればど真ん中に命中する」

「す、すごい!」

「真珠湾攻撃の時はみんなそれが出来た。ところが最近のパイロットはそんな事すら考えないで悪さを機体のせいにする。でもそれは違う。機体が悪いんじゃなくてパイロットが悪いんだ」


大野中尉は口こそ悪いものの、ある意味正しい理論を持っていた。デジタルの力は人間の能力を劣化させてしまうのである。

算盤を捨てれば暗算能力が衰え、ワープロを使えば漢字が書けなくなる。そうやって感性がどんどんと衰えて行く。

66年前の世界でも、それとよく似た事が起きていた。