フォーエバー・フレンズ -185ページ目

四、大空のサムライ達(第十六話)

そしてその晩、弟と妹が寝静まった後、正一は智子に自分が神風特攻隊に志願した事を告げた。

「そんな・・・敵艦に体当たりするなんて」

智子は思わず言葉を無くしてしまった。しかし正一はしっかりとした口調で「はい」と言ってのけた。

「正一は爆弾じゃないのに!」

「お国の為に立派に死んできます」

「そんな!」

「智子姉さん。この歳まで育てていただいて本当に有難うございました」

正一が笑顔でそう言うと、智子の目から涙がこぼれ落ちた。

「・・・本当は戦争なんて行って欲しくない。巷では一億玉砕なんて言っているけど、自分の家族の死を喜ぶ人なんて何処にいるの・・・」

「・・・」

「死んだお母さんは、真治を戦争で死ぬ為に産んだんじゃない・・・」

「智子姉さん。今は国難なのです」

「アメリカになんて初めから勝てない!」

「姉さん!」

「何で若い人ばかりが死んでしまうの・・・どうして何の罪もない若い人ばかり・・・どうして!」

智子はそう言うと、顔を両手で押さえながらシクシクと泣いた。しかし正一はニコリと笑い、姉の細い肩を両手でしっかりと掴んだ。

「智子姉さん。僕は日本民族の存亡を掛けて戦います。それがたとえ小さな抵抗であったとしても戦います。智子姉さんや義男やせつ子が、アメリカの奴隷になるなんて僕は耐えられない」

「正一・・・」

「智子姉さんわかってください。そして、義男とせつ子には、自分がお国の為に立派に戦ったと伝えて欲しい」


早朝、焼津の町には雨が降り注いでいた。

それはまるで正一との最後のお別れに、焼津の空が涙を流しているかのようであった。

弟と妹が寝静まっている間に、正一は旅立つ事とした。二人の前で泣いてしまいそうだったからだ。

涙は見せたくない。男らしく散りたい。それが正一の気持ちであった。


「正一、傘を持っていきなさい」

智子がそう言うと、正一はゆっくりと首を横に振った。

「いいよ。持って帰って来れないから・・・」

正一が寂しげな笑顔でそう言うと、智子の目からは大粒の涙が溢れ出た。

「それでもいいから持って行きなさい!」

智子はそう言って、正一の手に黒い傘を無理矢理手渡した。

「ありがとう・・・智子姉さん元気で・・・」

そう言うと正一は黒い傘をさし、雨の焼津の自宅を後にした。


空を見上げると大粒の雨。正一は、誰にも見られぬよう顔をクシャクシャにして泣いた。




いよいよ大前正一君の出撃の日がやって来た。そして大野中尉は敵艦付近まで、正一の援護を行う事となった。

「大野中尉。援護宜しくお願いします」

「ああ、敵艦まで絶対に連れて行ってやる。もし途中で攻撃されたら、俺が体当たりをしてでも守ってやるからな。だから立派に死んでこい」

そして飛行服姿の二人は、固く握手を交わした。


鹿屋飛行場には5機の特攻機が並べられてあった。これから特攻攻撃に出撃する若者達の乗る飛行機である。

そして5人の特攻隊員は、綺麗に横に並んで歌いだした。


海ゆかば水漬く屍

山ゆかば草むす屍

大君の邊にこそ死なめ

かえりみはせじ


そして万歳三唱の声。


「天皇陛下万歳!」

「万歳!」

「万歳!」

「万歳!」


それが終わると、若き特攻隊員は、次々と飛行機に乗り込んでいく。そんな姿を真治は連日のように、デジタルカメラで撮影していた。

するとこれから出撃をしようとする正一が、真治の方へと歩み寄ってきた。

「正一君!」

「久保川さん。本当に有難うございました。あなたがいなければ、僕はきっと後悔していたと思います」

「うんうん」

「思い残す事はもう何もありません。これから大前は敵艦に体当たりしてまいります。素晴しい未来。そして生まれてくる祖先の為。大前は思う存分に戦ってきます。本当に有難うございました」

そう言うと正一は真治に深く頭を下げた。そしていつものようにニッコリと笑うと「それでは元気で」と言って、特攻機に向って走って行った。

真治は正一が飛び去っていくまで、その勇姿をとらえようと、一眼レフデジカメのシャッターを押し続けた。


そしてその日、正一は大空へと消え、空の英霊となった。