六、66年前の手紙(第二十話)
翌日、鹿屋飛行場には一機の特攻機が出撃しようとしていた。それは紛れもなく久保川大尉の乗る特攻機である。
そしていつも通りに別れの神酒を飲み、海ゆかばを歌うと、万歳三唱。一通りの儀式を済ませると、久保川大尉は鹿屋の空を見上げた。
「よし。行くぞ!」
援護機は無い。しかもたった一機での出撃を行う。それが自殺行為である事は誰しもがわかっていた。しかし、軍人として潔く死なせてやろうという思いで、周囲はあえて何も言わなかった。
そしていよいよ出撃の時。すると飛行場の傍らに真治が姿を現した。なんと最後の見送りにやってきたのだ。その姿を見た久保川大尉は、一瞬驚いた表情を見せた。
「久保川・・・」
すると真治は、両手一杯の万歳をした。
「久保川武雄君!万歳!」
「久保川武雄君!万歳!」
「久保川武雄君!万歳!」
真治は目に涙を一杯にため込みながら、何度も何度も万歳をした。
「久保川・・・」
そう言うと、久保川大尉は真治に歩み寄ってきた。そして「来てくれたんだな」と言って笑った。
「はい。久保川大尉のお見送りにまいりました」
「そうか有難う。もし66年後の世界に戻れたら、皆の勇姿を後世の方に伝えてくれ」
「わかりました。きっと伝えます」
「たのむ。久保川、元気でな」
「久保川大尉も元気で」
二人はそう言って、固く握手をした。
「そうだ。これをお前に託したい」
そう言うと、一枚の封筒を真治に手渡した。その封筒を真治がまじまじと見つめていると、久保川大尉は「もし66年後の世界に帰れたら、その手紙を俺の子に渡してくれ」と言った。
「親父に・・・わかりました」
「それともう一つ。これをお前に返す」
そう言うと、借りていたIpodを真治に差し出した。すると真治は首を横に振った。
「それは差し上げます。お世話になったお礼です」
「そうか。ありがとう。それじゃ敵艦隊にたどり着くまで、『さくら』でも聞いていこうか」
そう言うと、久保川大尉は少しお茶目に笑ってみせた。そして「久保川武雄行って参ります」と言って敬礼をすると、特攻機に向って走り去っていった。
真治はその勇ましい姿を見ながら、何度も何度もシャッターを押し続けた。拭いても拭いても涙が止まらない。デジタルカメラの画面がぼやけて久保川大尉の姿も良く見えない。
それでも真治はその勇姿を納めようと、ひたすらシャッターを押し続けた。
やがて特攻機のプロペラが回りだし、久保川大尉の特攻機は滑走路をゆっくりと進んでいった。そして真治は大粒の涙を流しながらその飛行機を追いかけて行った。
「おじいちゃん!おじいちゃん!」
「真治!未来の日本を頼むぞ!素晴しい世界にしてくれ!」
「おじいちゃん!!!約束するよ!きっと素晴しい社会にするよ!」
真治はひたすら走り続けた。
そして久保川大尉の乗った特攻機は緩やかに浮かび上がり、やがて沖縄方面の空へと消えていった。
真治は飛行場に跪きながら、消え去っていく飛行機を涙目で見つめ続けた。
「おじいちゃん・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・」
そう言ってひたすら泣き続けた。