六、66年前の手紙(第二十一話)
久保川大尉が戦死した事により、特攻隊の指揮権は臨時で小野少尉に託された。本来なら絶対にあり得ない人事である。しかし戦死者の多さのあまり、日本軍にはもう人材がいなかったのだ。
そして各特攻隊員を前にすると、小野少尉は「特攻作戦は当面中止」と言った。すると隊員は小野少尉に一気に詰め寄った
「どうしてですか!出撃させてください!」
「これは上からの命令だ」
「そんな!」
虎之助君もこの事には怒り心頭だった。折角自分は戦うつもりで来たのにと。
「出撃出来ないなんてあんまりです」
虎之助君は、塹壕堀りをしながら真治にグチっていた。しかし真治はこれでよかったと思っていた。もうすぐ戦争が終わる。これで虎之助君は助かったのだと。
そして二人で一生懸命塹壕堀をしていると、またもや空襲警報が鳴り響いた。もう343空もごく僅かしかない。エースの大野中尉もいない。
鹿屋基地は高射砲で戦うしかなかった。
恐らくこれはアメリカ軍最後の攻撃であろう。しかし敵航空部隊の数は、ハンパではなかった。その数なんと88機。
わずか13機の紫電改が飛び立ったが、数で圧倒するアメリカ軍の相手にもならず、ほとんどがあっという間に撃ち墜され、敵機の大多数がこの鹿屋基地へと飛来してきた。
「敵機来襲!打て!打て!」
対空砲火がなされるが、あまりもの数のアメリカ軍攻撃機に、塹壕は次々と爆撃されていった。
あたりは炎が吹き上がり、飛行燃料と血の臭いが混ざり合っていた。
堀かけの塹壕で、真治と虎之助君はひたすら身を伏せていた。すると、飛行場に無傷の紫電改がとまっている事に気がついた。
「くそ!やっつけてやる!」
そう言うと虎之助君は、塹壕を飛び出し、無傷の紫電改に向って走っていった。
「虎之助君!」
虎之助君は、なんと紫電改に乗って敵と戦おうとしたのだ。そして「うおおお!」と叫び声を上げながら飛行場内を突き進んだ。
するとその時、グラマン戦闘機が急降下し、虎之助君に容赦なく機銃を浴びせかけた。そして虎之助君は足を撃たれ、そのままその場にドカッと倒れこんだ。
「くそ!やられた!」
「虎之助君!!!」
一度は、上昇していったグラマン戦闘機。しかし、再び急降下し虎之助君に襲い掛かってきた。
それを見た真治は咄嗟に久保川大尉の形見である軍刀を抜き出し、襲い掛かってくるグラマンを目がけて走り出した。
「やめろ!!!!!!!」
なんと真治は、軍刀一本だけでグラマンと戦おうとしていた。そして倒れた虎之助の前に立ちはだかり、襲い掛かってくるグラマンを睨み付けた。
「く、久保川さん・・・逃げて・・・逃げて・・・僕はいいから・・・」
自分でも何故こんな行動に出たのか理解できなかった。
そして「かかってこい!!!!」と叫び、鬼の形相でグラマンを睨み付けた。
しかしグラマン戦闘機は、容赦なく二人を目がけてババババッと機銃の嵐を放った。
「うわああああ!」
救急車のサイレンが鳴り響く大手町は騒然となっていた。
真治は、雨の降る大手町の大通りで、血を流して倒れていたのだ。
衣服は交通事故のショックであろうか、あちらこちらが擦り切れていた。肩にはデジカメ。
そして右手には海軍士官の軍刀が・・・