七、靖国の桜(第二十三話)
翌日、真治は病室のベッドで目を覚ました。
「真ちゃん!」
「パパ!」
「佐智子・・・綾・・・」
真治は朦朧としていた。
「虎之助君・・・」
「虎之助???」
佐智子はそう言うと不思議そうな顔をした。その佐智子の顔を見て、真治は大きく目を見開いた。
「も・・・戻れたのか・・・現代に戻れたのか?佐智子、今平成何年だ?」
「23年だよ」
「そうか、戻ってきたんだ。よかった・・・」
「一体どうしたの?ねえ、どうしたの?」
「佐智子・・・親父を呼んできて欲しい」
真治にそう言われると、佐智子はニッコリと笑って隣を指差した。すると指差した先には、雅史の姿があった。
「真治」
「親父、おじいちゃんと会ったよ。おじいちゃんは勇敢だったよ。お国の為に・・・部下の為に・・・負けたよ。本当に凄い男だよ・・・」
「ああ・・・手紙も読ませてもらった。俺はお父さんの事を誤解していた。お父さんは素晴らしい人だったんだ。なのに俺はお墓から名前を外したり・・・本当に親不孝な人間だ・・・」
「親父・・・」
「なんだ?」
「ごめん。13年間も放ったらかしで・・・男手一つで育ててくれたのに、何も感謝もせず・・・何も親孝行もせずに・・・」
「いいんだ。もういいんだ。俺も悪いんだ。きっとおじいちゃんが真治を呼んだんだよ。お前らいい加減にしろって」
「そうだね。きっとそうだよ・・・」
お互いにいがみ合っていた二人は、初めてお互いに謝罪の言葉を述べた。そして三代に渡っていがみ合い続けた親子の溝は、66年の歳月をかけてようやく埋まったのである。
すると佐智子が、その間を裂くようにして話し出した。
「真ちゃん。それよりも大変なの。真ちゃん、交通事故に会った時に刀を持っていたらしくて、警察の人が銃刀法違反の容疑だと言っているの。ねえ、あの刀一体どうしたの?」
「刀は、おじいちゃんからもらった形見だよ。返してもらわないと」
「警察が信じると思う?タイムスリップなんて」
「そうかあ。どうしよう・・・」
「もう知らない!」
退院すると、真治はすぐさま警察署へと向かった。別に逮捕されてもいいと思っていた。連日の空襲や、グラマン戦闘機に軍刀一つで立ち向かった事に比べれば、逮捕ぐらい大した事でもなかった。もう何も怖くなくなっていた。
そして警察署の取調べ室で、真治はありのままタイムスリップの事を述べた。
「う~ん」
担当警察官は、そう言って腕組みをした。
「もちろん信じてもらえるとは思っていません。だから逮捕するならそれでも別に構いません。でもあの刀はおじいちゃんの形見なんです。返してください」
「いや・・・それがね・・・」
「何か?」
「ちょっとこの映像を見て欲しいんだけど」
そう言うと警察官は、取調室に持ってきたテレビに、事故のあった交差点の映像を見せた。
その映像には、横断歩道を渡っている時の真治は刀を持っていないのに、トラックにぶつかった直後には刀を持っていた。
「警察の判断としては、どこか違う所に刀が落ちていて、それを2tトラックが引っ掛けた。そしてその後、事故でぶつかった拍子にその刀がトラックの車体の下から飛び出し、偶然あなたの手に渡ったという判断です」
「じゃあどうなるんですか?」
「落し物という扱いです」
「それじゃあ、私が落としましたと名乗り出た人がいたらどうなるのですか?」
「その人のものになります」
「そんな!あの刀は私の物です!逮捕しても構いませんから誰にも渡さないでください!お願いします!」
「お、落ち着いてください!」
結局落とし主も現れず、軍刀は無事真治の手に渡った。