七、靖国の桜(第二十四話)
真治は、大磯の自宅でその軍刀を抜いた。そして美しき光り輝く刃先をじっと見つめた。
僕はあの時、この軍刀一つでグラマン戦闘機と戦おうとした。何故戦おうと思ったのだろうか?下手すれば僕は死んでいただろう。
でもあの時、少なからずとも僕には死ぬ覚悟というものがあったと思う。
それは、虎之助君を助けようと思ったからだ。特攻から命救われた虎之助君を、死なせてはならないと思った。
こんな僕にも、誰かの為に戦う勇気があった。それはきっと、特攻隊員達が僕に教えてくれたのだろう。
虎之助君・・・
君は無事だったのか?
今でも生きているのか?
君に会いたい・・・。
数日後、真治は大東京新聞社へと出社した。
「久保川。大変だったな。いやあほんと事故って恐いよな。まあ軽傷でよかった」
上司はそう言って、あくまで真治の体を気遣ってくれた。しかしそんな気遣いに、申し訳ない気持ちになりながらも、真治は上司に辞表を提出した。
「久保川!どう言うつもりだ!」
「すみません。受理してください」
「何が不満なんだ。給与か?職場環境か?」
「いえ、もう記事を書く自信が無いのです。記者である以上、書いた記事に責任を持ちたいのです」
「久保川!」
退社理由は、給与でも職場環境でもなかった。
スポンサーのご機嫌ばかりとった記事をこれ以上書きたくなかったからだ。報道とはありのままの真実を伝えるためにある。本来そこに利権というものが存在してはならない。何故なら、読む人は新聞に書いてある記事を、そのまま真実として受け止めるからである。
今までの僕はウソの記事を書き、その責任は会社がとるものであると開き直っていた。しかし、それは大きな間違いである。僕は自分の書いた記事に対して責任をとらなければならないのだ。
後世にまで禍をのこした大東亜戦争。
それはメディアと軍需産業が結託して戦争を煽った結果であろう。
戦争とはそんなところからやってくるものである。そしてその犠牲となるのは、いつも庶民である。
仕方が無いで始まり、仕方が無いで終わってしまった大東亜戦争。
こんな悲劇が一体何処にあると言うのだろうか?