フォーエバー・フレンズ -179ページ目

六、66年前の手紙(第二十二話)

「命には別状はありません」

医師からそう伝えられた佐智子は、ホッと胸を撫で下ろした。そして娘の綾を抱きながら真治の病室へと歩いて行った。

すると、雅史が警察から取り調べを受けていた。

「いや。知りません。息子は刀なんて普段持ち歩きませんよ」

「しかし現実刀を持って倒れていたのですから。しかも街中でですよ」

その言葉を聞いて、佐智子が走り寄った。

「本当です!真ちゃんは刀なんて持っていません」

「いや、現実持っていたのですから。とにかく銃刀法違反容疑で・・・」

「いい加減にしてください!」

警察官は困り果ててながらも「まあ、回復を待って取り調べをしますので」と言いその場を去っていった。

「そんな・・・」


警察が帰ると、病室内はしーんと静まり帰った。

このままでは真治が逮捕されてしまう。そんな空気が重苦しく圧し掛かっていた。

佐智子は、おもむろに真治の持っていたデジカメの画像を覗いてみた。するとそのカメラに残っていた画像に衝撃を受け思わず驚いてしまった。

「何これ?映画???ねえお父さん。真ちゃんの持っていたデジカメの画像なんですけど、こんなものが・・・」

「どれどれ・・・」

雅史はそう言いながらデジカメの画像を見ると、一瞬背筋が凍りついてしまった。

そこに記録されていた画像。それは、自分の父親である久保川武雄大尉の最後の出撃であった。微笑んで敬礼をする久保川大尉。特攻機に乗り込む久保川大尉。白黒写真でしか見たことのない自分の父親が、なんとデジタルカメラに鮮明に写っていたのである。

「こ・・・これは・・・私の父親だ・・・」

「えええ???」

「間違いない・・・」

「ちょ、ちょっとまって。これって一体・・・どう言う事???」

すると病室に看護婦が入ってきた。

「久保川さんの衣服の中に入っていたものです。お返しします」

そう言うと看護婦は、真治の衣服に入っていたものを纏めた、小さな籠を佐智子に手渡した。

その籠の中には、財布、携帯電話、名刺入れ。そして一通の封筒・・・。

「何これ?」

佐智子はそう言うと、封筒の中身を取り出した。そしてその内容を見ると目を真ん丸くさせた。

「お、お父さん・・・この手紙読んでください」

「手紙???」

雅史はそう言うと、その一枚の手紙を読み始めた。







まだ見ぬ子へ


拝啓 残暑の候

8年にも及ぶ国難の中、夜空美しき鹿屋基地にて、まだ見ぬ子を想いこの手紙を書いております。

そしてこの手紙を、貴殿のご子息である久保川真治君へと託す事と致しました。


貴殿は小生を憎んでいると、ご子息の真治君からお聞き致しました。

神風特別攻撃隊への加担。その事で貴殿は戦後、多大な苦しみを受けたと聞きました。

それについては大変申し訳なく思います。

然れども軍人である以上、どうしても避けては通れぬ道というのもございます。

神風特別攻撃隊は、ご家族や、故郷を守らねばならぬという使命感に満ち溢れた、美しき心を持つ若者達であります。

そして小生も彼らと同じくして、この国を守らねばという使命感を持っておりました。

しかし、戦いが終わろうとしている今、指揮官である小生だけが生き残り幸せになる事は、亡くなった者達に対して顔向けの出来ない事であります。

小生が貴殿の顔を見る前に死んでしまう事。また、何一つ父親らしき事も出来ない事。

家族より、軍人としての道を選んだ小生を、どうかお許しください。


でも、もし夢かなうのであれば、貴殿とともに山登りを致したく思います。

高尾山を家族三人で登り、皆で妻の作った美味しいお弁当を食べたく思います。

家族三人で、箱根の温泉に行きたく思います。

皆で大磯の海で海水浴をしたく思います。

小田原の美味しい蒲鉾を貴殿にたべさせてあげたく思います。

そしてこの手で貴殿を抱きしめたく思います。

可愛いわが子をこの手で力いっぱい抱きしめたく思います。


先日、妻より妊娠の報告を受け、小生心よりそれを喜び申し上げました。

しかしそのわが子の成長を見届ける事が出来ないまま、最後の出撃を行う小生をどうかお許しください。

小生は貴殿の幸せを願い、靖国の桜となります。



久保川 武雄


 


その手紙は66年前に、父が自分への想いを綴った手紙であった。

「お父さん・・・」

雅史はそう言ってポロポロと涙を流した。

遺族に後世まで禍をもたらし一人死んでいった久保川大尉。雅史はそんな父をずっと恨んでいた。そしてその思いは66年経った今でも変わらなかった。

しかし、彼の父も一人の人間であり、その奥には、優しい父親の心を持っていた。

そんな事も知らずに、雅史はずっと父を恨み続けていたのだ。

そして初めて自分の愚かさに気付かされた。

「すまない・・・お父さんすまない・・・本当にすまない・・・」

雅史は何度も何度もそう言って、度重なる父への無礼を詫びた。