1、 決められた運命ー1
「お母さん、どうして私は天使にしかなれないの?」
それはジュリにとっての、子供の頃からの疑問であった。
そしてそんな質問に、決まって母親は「これは決まり事だから」と一言だけ言う。
決まり事。
それは一体誰が何処で決めたんだろう?
そして何故それを守らないといけないのだろう?
そんな疑問をいつも抱えこみながら、ただ歳月だけが過ぎていった。
ジュリは18歳。
決められた通りに天使学校へと通い、そして決められた通りに今年の春、正式な天使になろうとしていた。
目覚まし時計の音が鳴り響く、ジュリの部屋。
朝が苦手なジュリは、布団の中に潜りこみながら、その目覚まし時計の位置を手探りで確認し、やっとの思いで音を止めた。
「ふあああ・・・学校行きたくない・・・」
今日もまたジュリにとって、退屈な一日が始まろうとしていた。
ジュリは、あくびをしながら階段を下りると、一人台所へと向かった。
すると母は既に仕事へと向かっていた為か、台所には誰もいなかった。
ジュリは朝食のパンを頬張りながら、窓の外の天使界の景色を見つめた。
天使界には曇り空というものが無く、この窓から見える景色はいつも青々と晴れ渡る美しい空だった。
ここは人間界の住む地上から、上空およそ3万メートルの世界。
天使界。
それは死んだ魂が一度はここへと運ばれ、そして人間界での総括を行うところである。
つまりこの場所で、天国行きや地獄行き、もしくは生まれ変わりの判断が下される訳である。
窓の外には、今日も天使に連れてこられた死者の魂たちが、沢山浮遊していた。
「しかし・・・毎日毎日よくこんなに人が死ぬもんだな・・・」ジュリはそう言いながら、朝食のパンを食べ続けた。
朝食を食べ終えると、ジュリは翼を広げて天使学校へと飛んでいった。
今日も一日退屈な授業を受ける事となる。
それはジュリにとって、何よりもの苦痛タイムだ。
天使学校の授業内容は主に天使界の法律についてであり、天使界の掟と言うものを徹底的に叩き込まれる。
そして教壇には、今日も堅物の『天使法』の教師が熱弁を振るう。
「え~いいですか。天使法第27条、第6項目。ここに人間の死について記載がされております。これによると死とは、心肺が停止した状態の事を言います。ですので心肺が停止しておらず、浮遊する魂を生霊といい・・・ん?」
天使法の教師は、何かに気付いたように、振り返った。
すると、ジュリが居眠りをしていた。
「ジュリさん!!!」
「ふあ・・・」
ジュリは法律の先生のキンキン声で、目を覚ました。
昼休み、ジュリはいつものように一人木陰でパンを食べていた。
すると先輩のエミが飛んでやってきた。
「ジュリ」
「あっエミちゃん」
エミはジュリより一年上の先輩で、今年から晴れて正式な天使となったばかりである。
「はい、人間界のおみやげ」
エミはそう言うと、ファッション雑誌『cancan』をジュリに手渡した。
「ありがと」ジュリはそう言って、そのファッション雑誌を受け取ると、早速ページを見開いた。
するとエミは不思議そうな顔をした。
「なんでこんなの見たいの?天使はこんな服着ちゃいけないんだよ」
「わかってる。でも憧れるの。大体、天使ってダサくない?白い服しか着れないし」
「まあ確かに・・・」
「音楽はオルガンだけだし、映画も無いし。ああ、人間界っていいなあ。いろんな服着れるし、音楽も最高だし。ねえ、今度JUJU落としてこれない?」
「人間界の音楽は禁止だよ」
「お願い。ナイショでダウンロードしてきて」
「う~ん。時間があったらね。でも内緒だよ。禁止なんだからね」
「わかってるって。ところでどう?天使の仕事」
「う~ん・・・あんまり・・・変な人多いし・・・」
「そうなの?」
「うん。この間なんてね。亡くなったおじさんの手引っ張って空飛んでたら、いきなり後ろから抱きつかれるんだもん」
「キモ・・・」
「でしょ?もう死んでるじゃんって、つっこんでやった」