1、 決められた運命ー3
「いい加減にしなさい!!!」
そんな母の怒鳴り声で、ジュリは目を覚ました。
すると母はジュリのIPODを、イヤホンごと剥ぎ取るようにして取り上げた。
「何すんの!」
「人間界の音楽は禁止でしょ!」
「なんで!」
「法律なの!」
「うるさいなあ・・・」
「それにあんたまたスピード違反やらかしたみたいね」
「ヤバ・・・」
「いい加減にしなさい!もう、もみ消ししないわよ!」
「誰も最初から、もみ消してって頼んでないじゃん」
「あんたはどうして私の立場ばかり潰すの!そんなに私に迷惑かけて楽しいの?」
「うるさいなあ!立場、立場って!」
ジュリはそう言うと、階段を駆け上がり、自分の部屋へと閉じこもってしまった。
「まったく・・・あのこは・・・」そう言うと、母は壁に掛けてある亡くなった夫の肖像画を見つめた。
「あなたが悪いのよ。あの子に人間界の物ばかり与えたものだから、あんな風になってしまって・・・」
ジュリは幼くして父親を亡くし、今は母と二人暮らし。
父を亡くしてからは、母はジュリを育てる為に仕事の虫となり、一天使から、天使長、迎天長官、そして天使副総裁、やがては天使界のトップである、総裁の地位へと成り上がった。
しかしそんな母の出世とはうらはらに、親子の関係は年々冷え込んでいった。
ジュリは部屋に閉じこもり、机の中からキティーちゃんのキーホルダーを取り出した。
そして「お父さん・・・」と言って、思わず涙ぐんでしまった。
次の日の昼休みの時間に、ジュリはまた先輩のエミと会っていた。
「ほんと、あったまくる・・・」
「仕方ないよ。だってジュリのお母さん天使界の総裁だよ。娘が規則ばかり破ってたら、立場ないじゃん」
「でもね、私たちって、なんで人間界の音楽聴いたらだめなの?なんで白い服しか着れないの?それになんで天使にしかなれないの?おかしいじゃん。それって何のための規則?」
「そりゃあ・・・」
エミは返す言葉が無く、黙り込んでしまった。
「もうやだ。こんな世界」
ジュリはそう言うと、その場にゴロリと寝転がった。するとエミは、突然思い出したかのように話し出した。
「そうだ、ジュリ人間界に留学してみたら?」
「留学?」
「うん。天使学校の最終学年で、確か3ヶ月の短期留学が出来るんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。天界か人間界のどちらかを選べるんだけど、天界は人気コースだから多分もう無理。でも人間界の留学コースならまだ空いてるはずだよ。人気無いしね」
「そ、そうなの」
そう言うと、ジュリの目は突然輝きだした。そして「ちょっと先生のとこ行って来る」と言って、校舎へと駆け出していった。
そんなジュリの姿をエミは微笑ましく見ていた。
「ジュリ・・・一度人間界に行ってきなよ。そしたらスッキリするよ」
そう言うとエミは自分の職場へと飛び去って行った。
ジュリは早速職員室で、留学のヒアリングを受けていた。
「ええ、人間界の留学ならまだ空いてるわよ」
「行きたいんです。人間界に」
「う~ん。一応保護者の同意がないと・・・」
「わかりました。親はちゃんと説得します」
そしてジュリはその日の晩、家で母親に留学したい意向を告げた。
しかし人間界への留学なんて、母親が納得する訳が無かった。
「ダメ」
「お願い」
「ダメ」
「どうして?」
「どうせ遊ぶんでしょ。人間界で」そう言うと、母親は自分の部屋へと去っていった。
「あの・・・クソばばあ・・・」そう言って、ジュリは閉められた扉をじっと睨みつけた。
そしてその時、扉の側の戸棚の引き出しに目がいった。
「わかった。もうどうでもいい。行くと決めたら行く」
ジュリはそう言うと、戸棚から母親のハンコを勝手に取り出し、なんと保護者同意書にハンコを押してしまった。
そして「へへへ」と不気味な笑いを浮かべた。