フォーエバー・フレンズ -168ページ目

1、決められた運命ー6

ジュリはお店を出ると、近くの公園まで歩いてやってきた。

そして再び飛ぼうと思い、翼を広げようとした。するとその時、ジュリの羽根に激痛が走った。

「イタッ!」

なんとジュリは、翼にケガを負ってしまっていた。

「・・・だめだ・・・痛くて飛べない・・・」そう言うと、トボトボと『天使寮』の場所まで歩いていった。


そして午前0時。

ジュリは散々道に迷いながらも、やっとの思いで寮へとたどり着いた。

『天使寮』

その名前とはうらはらに、そこはまるで民宿のような作りで、古き良き昭和の日本を彷彿させるような、木造の建物だった。

「これが寮?ボロいじゃん・・・」

ジュリはその寮のボロさを見て、がっかりしてしまった。

すると、丸々と力士のように太った寮母さんが、玄関先で待ち受けていたのだった。

「ジュリさん!あんた一体何してたの!こんな遅くまで!ずっと待ってたんだよ!」

寮母さんは、いきなりジュリの事をどやしつけた。

しかしジュリは墜落の影響で、服は汚れ、さらにあちらこちらが破れていた。

そんなジュリの姿を見て、寮母さんは驚いた。

「ジュリさん・・・一体何があったの?ひょっとして襲われたの?」

するとジュリは「ごめんなさい・・・」と言って、泣き出してしまった。

まさか人間界デビューの日に、いきなり墜落とは・・・。

自分が情けなくなってきた。


寮母さんは、天使の医師も兼任していた。

そして早速ジュリの翼を開いてみた。

「いたたたた・・・・」

「あ~あ、骨折してるねえ。つないであげるよ」

そう言うと、寮母さんは太い腕をまくしあげ、ジュリの羽根を思いっきり引っ張った。

「いたああああ!いたあああい!」

「我慢しなさい!」


骨折したジュリの羽根は、寮母さんの荒治療で、なんとかつながった。

そしてお茶とお菓子を出してもらい、それをご馳走になると、少し気分が落ち着いてきた。

「これで一応はつながったけど、当分は飛べないね。まあデリケートな部分だから、最低2ヶ月は様子みた方がいいよ」そう言うと、寮母さんはお茶をズズズッとすすった。

「ええ!2ヶ月も飛べないの?」

「そうだよ」

「そんなあ・・・」

「あんた、天使界出る時言われなかった?羽田空港付近を飛ぶなって。自業自得だよ」

「・・・」

「まあ、生きてるだけでもよかったと思いな」そう言うと、寮母さんは丸々とした顔を少しだけニコリとさせた。




人間界一日目の朝が来た。

ジュリはパジャマ姿のまま部屋を出ると、階段を下りて食堂へと向かった。

するともう一人、人間界へ留学している天使がいた。

「お、おはよう・・・」

ジュリが少し戸惑いながら挨拶をすると、その天使は「おはよう。ジュリさんだよね?」と言ってニコリと笑った。

「私、レナって言うの。ヨロシクね」

「あ、よろしく」

「朝食は全部セルフサービスだからね。お米はそのジャーの中にあるし、生卵は冷蔵庫の中にあるよ。味噌汁はさっき私が温めておいたから、今は火をかけなくても大丈夫だよ」

人間界での初めての食事。

それは『コメ』『味噌汁』『生卵』『味のり』。

天使界ではパンが主流だったが、ここでは和食が主であった。

初めて食べる生卵を不思議に思いながらも、ジュリはせっせと朝食の準備を始めた。


早速生卵をご飯の上にかけてみた。

そしてグチャグチャとかきまわし、ズルズルと音を立てて食べてみた。

「おいしい・・・」

ジュリはこの生卵ご飯のあまりにもの美味さに、思わず感動してしまった。

「でしょ?」レナはそう言うと、ジュリと同じようにズルズルと音を立てて、生卵ご飯を食べた。




恭介は、朝一で修理業者を呼んでいた。

ポッカリと穴の空いた天井。そして昨日、空から落ちてきた天使。

その爪あとを、不思議な気持ちで見つめていた。

「隕石でも落ちないかぎり、こんな風にはならないよ。喜多嶋さん、その女の子本当に生きてたの?」修理業者の男は、ポッカリと穴の空いた天井を見て首をかしげた。

「はい。大丈夫ですと言って、知らない間に消えてしまって」

「不思議な事があるもんだねえ。とにかく警察に届けたほうがいいよ。立派な器物損壊だよ」

「いえ、いいですよ。厨房が暗かったもんで、ちょうどあの部分に天井窓を取付けようと思っていたところです。天井窓取り付けの見積もりをお願いしますよ」そう言うと、恭介はニコリと微笑んだ。


朝食のサンドイッチを売り終えると、恭介はいつものようにワッフルの生地を作る。

美味しくなれ、美味しくなれと願いながら・・・。

今日は、昨晩天使が落としていった羽根を、厨房の傍らに置いてある花瓶にさしていた。

そして上を見上げれば、ポッカリと穴の空いた天井。そこからは、青々とした冬の空があった。