フォーエバー・フレンズ -166ページ目

2、アルバイトー1

3人は、天井にポッカリと空いた、大きな穴を見上げていた。

「へえ、これがジュリの落ちた場所なんだ」レナは、その大きな穴をまじまじと見つめた。

するとジュリは「ごめんなさい・・・」と言って、すまなそうに恭介に謝った。

しかし恭介は、不思議そうな顔をして「君はどうして空から降ってきたの?」と聞いてきた。

「あ・・・はい・・・その・・・」ジュリがそう言って戸惑っていると、レナが「グ、グライダーやってたんだよね?」と訳の分らないフォローをした。

「あ、そうそう!グライダーやってたんです!」

「あんな真っ暗なのに???」

「夜間飛行が好きで・・・」ジュリは訳のわからない説明をしてしまった。

そして「あの・・・本当にごめんなさい・・・」と言って、再度恭介に謝った。

「いやいや、ちょうどあの位置に、天井窓を取り付けようかどうか考えていたところだったんだ。でもこれで決心がついたよ」恭介はそう言うと、ニコリと笑った。

「でも・・・」

「いいからいいから、さあ二人ともワッフルでも食べて行ってよ」そう言うと恭介は、二人の背中を押して行った。


ゴツゴツとして、一見硬そうに見えるワッフル。

しかしそれにフォークを刺すと、すんなりと入っていく柔らかさ。

外にかけられた、ブルベリーソースと生クリーム。

ジュリは、そのワッフルを口に含んでみた。

すると口全体に広がる甘みが、心を癒してくれるかのようだった。

「おいしい!」

「でしょ」レナはそう言うと、ラズベリーソースを沢山つけたワッフルを口に含んだ。

「人間界にはこんな美味しいものがあるんだ」

「しっ!人間界って言葉、NGだよ」



午後4時をむかえた『天使のワッフル』。

あたりは買い物帰りの主婦や子供達、女子大生、そして女子高生・・・。

みんながみんな、このワッフルの美味しさを味わう為、お店へと足を運んでくる。

そんな中、恭介は忙しそうにレジに立ち、お客様へ美味しいワッフルを提供する。


「レナ、これヤバイよ。ヤバうま」ジュリはひたすら『ヤバウマ』を連呼していた。

「でしょ。友達にココ教えてもらったんだ」

ジュリとレナは、大満足でそのワッフルを食べた。


「ごちそうさま」

「ありがとう。またおいで」

店長は、そう言うと二人に対してニコっと微笑んだ

その笑顔は、大人の顔の表情の中に潜む、少年のようなかわいい笑顔だった。

ジュリは思わず恭介のその笑顔に見とれてしまった。

するとその時、レジ横の一枚の貼紙に、目が行った。


『アルバイト募集 時給750円 17時~20時』


「アルバイト???」ジュリはその貼紙を見てそう言った。

すると恭介が「うん。ちょっと夕方忙しくてね。アルバイトしてみない?」と言って笑った。

その時ジュリの脳裏には、さっき渋谷で見た、黒いコートの姿がよぎった。

そして「あのコート欲しい・・・」と上の空の表情で言った。

「えっ?どうしたの?」

「あっ・・・なんでもない」





ジュリとレナは『天使のワッフル』のお店を出ると、二人して平和島の駅の方へと歩き出した。

「あの店長ってかっこいいよね。いくつなんだろ?」ジュリはふとそんな事を口にした。

「えっ?30歳ぐらいじゃない?」

「30?」

「そうだよ」

「そっかあ・・・歳離れてるんだね」

「どうしたの?店長の事好きなの?」

「えっ?ううん。別に」

「歳離れ過ぎてるし、多分相手にしてくれないよ」

「まあ、そうだよね」

「そうだ、ジュリはこの週末どうするの?天使界に帰るの?」

『天使界』その言葉を聞くと、ジュリの頭の中に突如母親の顔が浮かび上がった。

「あのクソババア・・・」

「クソババア?」

「えっ?ううん。なんでもない。私、翼を骨折してるから、治るまで帰れないんだ」

「あ、そうかあ。ジュリ、ケガしてたんだよね」

「うん。だからレナだけ天使界に帰りなよ。私、人間界の散策でもしてるよ」





そして金曜日の晩、レナは一人天使界へと帰っていった。

ジュリは寮母さんと二人、寮の居間でテレビを見てくつろいでいた。

するとテレビの音楽番組で、懐かしの歌特集が放映されていた。


『中村あゆみ 翼の折れたエンジェル』


ジュリはその歌を、じっと聴いていた。

「翼の折れたエンジェルかあ。まるで私みたい・・・」ジュリがそう言うと、寮母さんは「歌詞の意味が違う」と冷たくツッこんだ。

「ねえ、おばさんは天使界に帰らないの?」

「うん。もう20年も帰ってないよ」

「どうして帰らないの?」

すると寮母さんは黙っていた。

「ねえ、どうして?」

「うるさい」

「どうして怒るの?」ジュリがそう言うと、寮母さんは再び黙り込んだ。

そしてしばらく経つと小さな声で「重くて飛べなくなったの」と言った。

「そ、そうなんだ・・・」

場の雰囲気が、一気に気まずくなってしまった。

二人は要因こそ違うものの、お互い飛べない天使だった。