1、 決められた運命ー7
黒い制服に身を包んだジュリは、とてもご満悦だった。
なにせこの歳まで、黒系の服なんて着たことが無かったからだ。
「ちょーかわいい」そんな事を言いながら、自分の部屋の鏡に制服姿の自分を写してみた。
するとレナが「ジュリちゃん、学校行くよ」と言って、部屋に入ってきた。
「あ、うん」
寮から京急大森駅まで、歩いて10分。
二人は駅まで歩くと、品川方面行きの電車に急いで乗り込んだ。
すると電車の中は、ラッシュアワー地獄。
「く・・・きつ・・・」ジュリはギュウギュウ詰めになりながらも、必死に耐えていた。
「ジュリちゃん大丈夫?」
「う、うん・・・」
「慣れれば平気だから」レナもギュウギュウ詰めになりながら、笑顔でそう言った。
品川駅にたどり着くと、今度は山手線に乗り換える。
「ええ、また電車に乗るの?」
「そうだよ」
まわりを歩く人はとても早足で、それに流されるかのように二人は山手線のホームへと歩いて行った。
そしてまたもやラッシュ地獄。
やっとの思いで恵比寿にたどり着くと、レナが「今度は地下鉄に乗るよ」と言った。
「えーマジで?」
「こんなの楽な方だよ。藤沢から通っている子だっているんだよ」
天使界には、こんなラッシュはなかった。
みんな優雅に空を飛んでいたからだ。
広尾にある『心聖女学院』。
ジュリは人間界にいる間、この女子高にお世話になる事となった。
「羽田ジュリといいます。よろしくお願いします」ジュリはそう言うと、教室の前で深く頭を下げた。
そして人間界では、『羽田ジュリ』と名乗る事とした。
一応名目上は、帰国子女という扱いになっている。
ラッシュは地獄だったが、学校に行けば新しい仲間がジュリを待ち受けていた。
「へえ、ジュリってニノが好きなんだ」
「うん。かわいいじゃん」ジュリはエミからお土産でもらっていた雑誌のおかげで、人間界の芸能界について、かなり詳しかった。
「私、Heysay Jаmp好き」
「えーちょっと、ガキっぽくない?」
「うそ、全然いいじゃん。ちなみに私、山ピー」
「えー???」
ジュリは、クラスメイトとそんな楽しい話をして、休み時間を過ごしていた。
しかし授業内容はとても難しかった。
ジュリの入ったクラスは、理数系のクラスだった。
留学申請書の授業選択欄のところに適当に○をつけてしまい、いつのまにか理数系のクラスへと入ってしまったのだ。
しかし天使学校でも落ちこぼれだったジュリに、微分積分なんてわかるはずがなかった。
結局ジュリは、天使界にいた時と同じように、授業中はずっと居眠りをしていた。
そして放課後、ジュリはレナに連れられ、渋谷の街の散策へと出掛けた。
「授業ぜんぜんわからん・・・」
ジュリがそう言ってうなだれていると、レナは少し呆れた顔をした。
「何で理数系なんて選んだの?理数系は国公立大学目指す子ばっかりだよ」
「知らない。理数系って何?国公立大学って何?」
「そんな事も知らないで留学しにきたの???」
そんな事を言いあっていると、二人は高校生向けのかわいい服が売ってあるお店の前へとやってきた。
ショーウインドウに並ぶ、かわいい洋服。それはジュリが、子供の頃からずっと憧れていた、人間界の光景であった。
お店の中に入り、ジュリは一枚の黒いコートを手に取ると「これ、かわいくない?」とレナに聞いた。
「あ、かわいい」
「いくらだろう?」そう言って、値札をみると値段はなんと19,800円。
「う~ん・・・」
ジュリはそう言うと、その黒いコートをもとにあった場所へと戻した。
財布の中には、天使界から貰えるお小遣いの、1万円しか入っていなかった。
そして二人は肩を並べて、渋谷駅の方へと歩いていった。
「お金が無い・・・」
ジュリは少しうなだれながら、真冬の渋谷の空を見上げた。するとレナがニッコリと笑った。
「ジュリ、バイトするしかないよ」
「バイト?」
「そうだよ、バイト探しなよ」
「そっか、バイトかあ・・・」
そんな事を話しながら、ジュリとレナは改札口を抜け、渋谷駅のホームへとやってきた。
「ねえ、ジュリ」
「なに?」
「ちょっと付き合ってくれない?」
「えっ?何処に?」
「ワッフルのお店」
「ワッフル?」
「うん、平和島にちょー美味しいお店あるんだ。それに店長ちょーかっこいいんだ。一緒に行かない?奢ってあげるよ」
「えっ!行く!マジ楽しみ」
『天使のワッフル』
看板にそう書かれたお店。
お店のデザインは木目調主体で、小さくそして女性的でとても美しい。
「ここだよ」レナはそう言って、その看板を見上げた。
「うん?ここはひょっとして・・・」ジュリはそのお店を見て、なんとなく嫌な予感がした。
そして二人は、肩を並べるようにして、そのお店の中へと入って行った。
「いらっしゃいませ」恭介は、そう言って軽くお辞儀をした。
そして顔を上げたその瞬間、ジュリと目が合ってしまった。
「あっ!君は!」
「あー!やっぱり!!!」
ジュリは恭介の姿を見ると、放心状態になってしまった。