2、アル バイトー2
次の日、ジュリは再び渋谷の街へと出掛けた。
そして早速、携帯ショップで携帯電話を購入すると、ハチ公前で「えへへ」と言って、その買ったばかりのピンクの携帯電話を見つめていた。
するとその時、一人の男性がジュリの目の前に現れた。
「君かわいいね、バイトしない?」
「バイト?」
「そうそう、ちょっとお客さんとお話するだけでいいんだよ」
「えっ?話すだけ?どれくらい貰えるんですか?」
「時給2500円」
「ええ!そんなに?ひょっとしてエッチなお店?」
「違う違う違う!そんなんじゃないよ!」
そしてその日、ジュリはその謎の男性に連れられ、歌舞伎町へとやってきた。
新宿駅西口を出て、飲み屋街をしばらく歩くと、小さな雑居ビルがあった。
そして、そのビルに掛けられた、ピンクの看板。
『ガールズバー ひまわり女学園』
「なにこれ?ひまわり女学園?」
「お店だよ。さあさあ、入って」
お店に入ると、店内はカウンターバーとなっていた。
「あの・・・」
「こんな感じでカウンター越しに立って、お客様にお酒をついで、それで話し相手するだけでいいんだよ」
「そうなんだ・・・そんなんで時給2,500円も貰えるんだ・・・」
「ところで、身分証明書見せてくれる?」
「身分証明書???」
「そうそう。未成年者を働かせられないからね。年齢を証明するもの出して」
「持ってないです」
「そっか・・・まあいいか、18歳と言ってるし・・・」
こうしてジュリは、新宿のガールズバーでアルバイトする事になってしまった。
そんな中恭介は、商社時代の同僚と一緒に、新宿の居酒屋でお酒を飲んでいた。
「喜多嶋、お店は順調なのか?」
「まあ、普通だな」
「そんな店やって。どれだけ金残るんだよ」
「う~ん。まあ仕入代とか家賃とか差し引いて、30万残ればいいトコだな」
「そんなんしか残らないのかよ?」
「そんなもんだよ」
「それじゃ丸栄にいた時の方が、遥かによかったじゃないか」
「まあ、そうだね」恭介はそう言って微笑むと、芋焼酎のロックを口に含んだ。
「お前、奥さんがあんな事にならなければ、今頃お前、同期の中で一番最初に課長になってたと思うんだよ」
「あはは、そんな事ないよ。それにオレ、この生活、結構気に入ってるんだ」
「喜多嶋・・・」
「そんな顔すんなよ。オレ、丸栄にいた時より、今の方が生きてるって感じがするんだよ」そう言うと、恭介はいつものように少年のような笑みを浮かべた。
そして恭介は居酒屋を出ると、酔いを醒ますかのように、あてもなく新宿の街を歩き続けた。
『恭介のやっている仕事は、人を不幸にする』
そんな言葉が、恭介の心の中にずっと引っ掛かっていた。
丸栄商事。
それは、国内最大手の商社であり、恭介は3年前までこの丸栄商事に勤めていた。
所属はM&A推進事業部というところであり、その仕事内容は、企業を戦略的買収により買占め、そして買収した企業を徹底的にリストラやコスト削減を行うのである。
そして業績が向上すると、再び株式市場にて売り戻すという内容である。
これにより丸栄商事は2007年、過去最高益を出し、恭介は若干27歳にして課長代理へと出世した。
年収は1500万円。
しかしそれは、沢山の人への給与カットもしくは失業によって積み重ねられた利益であり、恭介はその人切りの報酬として、高額の所得を得ていたのだった。
そんなある日、恭介は突然辞表を提出した。
「喜多嶋、どういう事だ!」
「勝手言ってすみません。受理してください」
「奥さんの事か?」
「それもあります。でも、もうこれ以上自分の為に、人を苦しめたくないのです」
「これからどうする気なんだ・・・」
「はい、妻の残したワッフルのお店を継ごうかと」
そんな事を思い出しながら、恭介は一人夜の歌舞伎町を歩いていた。