2、アル バイトー4
ジュリは無事、天使の寮へと帰った。
すると・・・。
「なにやってんの!このバカ!」と、いきなり寮母さんのカミナリが落ちてしまった。
「ひえ!」
「門限も破って、挙句の果てに夜の街でバイトして。あんたはバカか!」
「な、何で知ってるの???」
「ちょうど新宿にいた天使からタレコミがあったの!誰かしら見てるんだからね!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「とにかく、今回の事は天使界には内緒にしといてあげる。でも次やったら強制送還だからね」
「はい・・・」
「返事が小さい!」
「はい!」
「行ってよし!」
そんなこんなで、ジュリはやっとの思いで寮母の怒りから解放された。
そして居間を出ると、廊下で「・・・ったく、あのオニババア」と捨て台詞のように言った。
すると背後から「何か言った?」と声が聞えてきた。
なんと寮母は、居間から首だけを出して、ジュリを見ていた。
「い、いえ!なんでもないです!」
翌朝の日曜日、ジュリは朝10時に目が覚めた。
そして起き上がると咄嗟に財布の中を覗いてみた。
すると財布の中には、昨日のバイト代と、元々あったお金と合わせて、なんと21,000円ものお金が入っていた。
「やった。これであのコートが買える」そう言うと、思わずガッツポーズをしてしまった。
そして「よし、渋谷に行くぞ!」そう言った瞬間、寮母さんが部屋へと入ってきた。
「な、なに?」
「あんた、そのお金何に使うの?」
「えっ?コートを買おうと・・・」
「あんた何考えてるの?そのお金であのワッフルのお店に、何か買って、持って行きなさい。お店の天井に穴開けといて。しかも逃げて。普通なら警察行きだよ?」
「でも、修理できるお金もないし・・・」
「気持ちの問題。あんたにできる事をやりなさい」
そう言うと、寮母さんは部屋を出て行った。
ジュリは寮を出ると、冬の青空を見上げた。
そして「ああ、またあのコートが遠くなってしまった。もう夜のバイトも出来ないし・・・世の中って甘くないなあ・・・」と言ってうなだれた。
大森駅の方に向かって歩いていると、駅前の洋服店の店頭に、グレーのマフラーが売ってあった。
「あ、これかわいい・・・」そう言うと、ジュリはそのマフラーを手に取った。
昼前の『天使のワッフル』は、朝の為か客足はまばら。
お店が混むのは、14時~16時のティータイムか、18時~20時のサラリーマンの帰社時間。
なので恭介は、黙々とお店の床にモップをかけていた。
するとお店の扉が、開いた。
「いらっしゃいま・・・」
恭介がそう言いかけると、なんと入口の前に立っていたのは、ジュリだった。
「ど、どうも・・・」
「やあ、ジュリさん」そう言うと恭介は、少年のような笑顔で微笑んだ。
「あの・・・これ、この間のお詫び」
ジュリはそう言うと、グレーのマフラーを恭介に見せた。
「お詫び?」
「ほら、私、天井に穴開けたじゃん。お金無いから弁償できないし・・・」
「ああ、そんな事か。もう忘れたよ。あはは」
恭介はそう言って笑うと、ジュリからもらったマフラーを首に巻いてみた。
そして「似合うかな?」とジュリに聞いた。
するとジュリは少しだけ微笑んで「うん、似合うよ」と言った。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「ねえ」
「うん?なんだ?」
「バイトってまだ募集してるんだよね?」
「ああ、まだしてるよ。時給が安くて誰も来ないんだよ」
「私、やらせてもらってもいいかな?」
「えっ?本当にやってくれるの?」
「うん、私、欲しい物が一杯あるんだ。だからお金が欲しい」
「そっか。わかった。がんばってね」
「うん」
こうしてジュリは、この『天使のワッフル』で働く事となった。
お店の看板には、天使の絵。
そしてユニフォームは、真っ白な調理服。
その姿を鏡に写してみると、天使界にいる時の自分とあまり変わらなかった。
そして、その白い衣装に納得が行かないのか、ジュリは「う~ん」と言って首をかしげた。