2、アル バイトー5
一週間後、段々と、このバイトが板についてきたそんなある日、恭介はジュリにアルバイト代を手渡した。
「えっ?もう給料日?」
「ああ、一週間に一度支払う事にするよ。買いたいものもあるだろうから」
「あ、ありがとう」
「それとオレ、これから4時から6時の間、席を外すからしっかりと留守番頼むよ」
「うん。わかった」
そして恭介は普段着に着替えて、お店を出て行った。
夕方の5時になると、お店はとても静かになる。
晩御飯前にワッフルを食べる人間なんて、そうはいないからだ。
そんな静かな店内で、一人レジの前に立っていると、なんとなく体を動かしたくなってくる。
「掃除でもするかな」ジュリはそう言うと、モップで床を拭き始めた。
すると店の奥の客席に、一人ポツンと座っている女性がいる事に気がついた。
年の頃は、20台半ば。切れ長の目がとても美しく、そしてぽってりとした唇。真っ白い肌。
とにかくとても美人である。
その美しい女性は、寂しそうにガラス越しに見える、窓の外の景色を見つめていた。
「あれ?お客さんいたかなあ・・・」
そう言うと、ジュリはその女性に近づいて行った。
「あの・・・」
「えっ!」その女性はジュリに声を掛けられ、少し驚いていた。
「あの・・・何か飲みますか?」
「わ、私?い、いえ・・・あの・・・」
女性はどういう訳か、声を掛けられただけでパニックになってしまった。
そんな姿を見ると、少しかわいそうに見えてしまったのか、ジュリは「コーヒーでも飲みます?ご馳走しますよ」と言って、コーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ出した。
そしてテーブルの上にコーヒーをトンと置くと、その美しい女性は黙ってその紙コップのコーヒーを見つめた。
「はい、砂糖とミルク」ジュリはそう言うと、テーブルの上にスティックの砂糖とミルクを置いた。
「あ、あの・・・」女性は不意に喋りだした。
「なんですか?」
「あなたは何者?」
その女性の言葉に、ジュリは驚いた。
あんたこそ何者だ?と思っていたからだ。
「私?私、ジュリと言います。ここでバイトしています」
「そう・・・ジュリさんて言うの・・・」
「あの・・・あなたこそ何者ですか?」
「私、菜月って言うの」
「菜月さんというのですか?よくここに来るのですか?」
「ええ、たまに・・・」
すると、お店の電話が急に鳴り出した。
「あ、電話だ。菜月さん、ちょっと待っててね」そう言うと、ジュリはレジの近くの電話のところへと走っていった。
「はい、ええ。今、店長が留守なもので・・・はい、それじゃあ携帯にでもかけてもらえます?090―6715―・・・」
電話を終えると、ジュリは再び客席へと戻ってきた。
するといつの間にか、菜月はいなくなっていた。
「消えた・・・」
テーブルの上を見ると、全く口を付けていないコーヒーと、一冊のノートが置かれていた。
そしてそのノートの表紙には『菜月のワッフルレシピ』と題名が書かれていた。
「なにこれ?」
ジュリはそのノートを手に取ると、不思議そうな目でそれを見つめた。