3、菜 月のレシピー2
翌日、ジュリは放課後、渋谷の街へと繰り出した。
その目的は・・・。
そう、あの黒いコートを買うためだった。
「ニッヒッヒ」
ジュリは電車の中で、不気味な笑みを浮かべていた。
そしてそのお店に行くと、そのコートはなんと11,980円!
なんと8千円も安くなっていたのである。
「ええ!安い!どうして???」
すると店員のお姉さんが「1月ですから、これからはもう春物の季節なの」と言って笑った。
「まだこんなに寒いのに?」
「そうよ」
人間界の女性向けの洋服は、季節を先取りして売り出される。
冬物は秋に買い、春物は冬に買う。
年がら年中同じ服を着ていたジュリにとって、それはとても不思議な事であった。
何はともあれ4割引の価格で、ジュリはその黒いコートを見事ゲットしたのだ。
「えへへ、ラッキー」そんな事を言いながら、ジュリはバイト先へとやってきた。
すると恭介が「あ、ジュリ、待ってたんだ。オレちょっと出かけるから、留守番よろしく!」と言って、走ってお店を出て行った。
「あ・・・店長・・・いつも夕方何処に行ってるんだろう?」
いつものようにガランとした夕方のお店。
そして一人レジに立つジュリ。
すると妙にお腹が空いてきた。
そんな時、ショーケースの中に並べられたワッフルケーキに目が行った。
そして「ひとつぐらい食べてもいいよね」と言うと、ジュリはストロベリーワッフルケーキと、カフェモカを手に持って、物陰でモグモグと食べだした。
「おいしい・・・本当においしい」
あまりにもの美味しさに感激してしまった。
すると「あの・・・」という声が、レジの方から聞こえてきた。
「はっ、はい!」
ジュリは口元についた生クリームを手でぬぐいながら、レジの前へと現れた。
すると、カウンターの向こうに立っていたのは、菜月だった。
「菜月さん!」
「こんにちは」
菜月の笑顔はとても美しく、そしてとてもミステリアスだ。
それは同性のジュリから見ても、思わずウットリとしてしまう。
そして二人は、お店の客席に座って話していた。
「あの・・・菜月さん。この間ノート忘れていましたよ」
「そう・・・」
「カバンの中に入れてますから、今持ってきます」ジュリはそう言うと、ロッカー室に向かおうとした。
すると菜月は「いいの・・・」と一言だけ言った。
「えっ?」
「ワッフル作りの勉強に役立てて欲しいの。あのノートを見ながらワッフルを作ってみて」
「でも私、コートとかいろんなものが欲しくてこの仕事を・・・ワッフル作りなんて」
「何かをする為に、ジュリさんはこの世界に来たんでしょ?」
「えっ?」
「天使の世界から」そう言って、菜月はニコリと微笑んだ。
「えええええ!!!!」
ジュリは気が動転して、もう訳が分らなくなってしまった。
『自分が天使である事を、人間に知られてはいけません』
そんな天使界の掟を思い出したジュリは、おでこが床にくっつく程に土下座をつきだした。
「お願いします!私が天使である事はどうぞご内密に!」
「誰にも言わないわよ。でも私のお願いも聞いてほしいの・・・」
「へい!何でございやしょう!」ジュリは気が動転して、時代劇のようなセリフを吐いてしまった。
「このお店の店長に、私のことは話さないで欲しいの・・・」
「承知しました!」
ジュリはそう言いながら、おでこを床にくっつけて、ひたすら土下座をついていた。
するといつのまにか、あたりが静まり返っている事に気がついた。
そしてふと顔を上げると、誰もいなくなっていた。
「あれ、菜月さん?また消えた・・・」
しばらくジュリは呆然としていた。
「なんで天使ってバレたんだろう?・・・」